「…宮地サン」
「うるせぇ轢くぞ」
「まだ何も言ってないのに!?」

教室手前の廊下で宮地さんと遭遇するのは何度目だろうか。名字ちゃんに会いたくて一年生のフロアを通ったり購買で待ち伏せしたりする宮地さんはかなり重症だと思う。執念コワイ。というか、一年生のフロアで目立つの嫌だとか言いつつよく来るよなぁ。前まで色恋沙汰には冷めているのかと思っていた宮地さんは意外と熱烈だったらしい。しかしそんな宮地さんの想いに未だに気付かない名字ちゃんは相当の強者だ。もう尊敬するレベルで鈍い。疎い。あんな鈍感を好きになると苦労するんだろうな。協力すると言った(脅された)身なのでなんとも言えないが、宮地さんは名字ちゃんに執着し過ぎだと思う。まあ二人の恋愛事情に首を突っ込む気もないんだけど…。「名字ちゃん呼んできましょーか」「…いい。前もそうだったろ」そんなの気にしなくたって名字ちゃんには気付かれないと思うけど。「清志先輩?」なんてタイムリーなんだろうか。たった今教室から出てきた名字ちゃんが宮地さんに声を掛けた。すげぇ…真ちゃん風に言うなら、運命なのだよ。「名前…!」宮地さん超嬉しそうだな。優しく頭を撫でてかわいがっている。名字ちゃんも嬉しそうに笑ってるし…もうカップルにしか見えない。頼むから早く付き合ってくれ。
そういえば名字ちゃんは日直で、クラス全員分のノートを職員室まで持っていかなければならないと言っていた。如何にもか弱そうな手にはそのノートが積まれている。

「名前、それどこに持っていくんだ」
「職員室です」
「分かった、貸して」
「あっ」

ひょいっと名字ちゃんの手からノートを取り上げた。うおぉ…男前…。でもそんな優しい宮地さん俺は知らない。なんか違和感…。「自分で持てますよ」「俺が持ちたいんだよ」「ダメです!」名字ちゃん割りと強情だよな…。相変わらず真面目だし。そして宮地さんは名字ちゃんにベタ甘だ。ちょっとコワイ。「…俺が持つの嫌なのか?」「そ、そういう訳じゃ…」泣き落とし使ってるよ…先輩なのに。宮地さん大人気ない。そんな宮地さん見たくないよ俺は。名字ちゃんは暫く悩んでから「せめて半分持たせてください」律儀に半分だけ要求した。宮地さんはしょうがないなぁという感じでノートを半分返してあげた。しょうがないのはアンタだよ…というツッコミはしないでおこう。名字ちゃんのこういう律儀で遠慮しいなところは良いよなぁ。でも言うことは言うし、やりたいことはする自由な性格だ。宮地さんが惚れてなかったら俺が惚れてたかもしれない。

「清志先輩のが多いです」
「そんなことねぇよ」
「あります…!」
「名前は細かいなぁ」

うわぁイチャイチャし始めた。いつも宮地さんに怒鳴られてる後輩が見たら確実に泣くだろう。恐怖で。…目に毒だから教室に戻ろう。「宮地さんと名字ちゃんがイチャついてた」「それでいいのだよ」「まあそうだけど」真ちゃんは一部始終を見ていたくせに割りと平然としていた。もう慣れたのかな。俺の方は未だに慣れない。
ある日部活終了後に、宮地さんが頭を抱えていたのを見た。珍しいなと興味本意で理由を聞くと、すごくあっさりと「一年に好きな子いて…」と溢したのだ。多分ぽろりと出てしまったのだろう。焦る宮地さんを思い切りからかいたかったけど、真剣な様子に毒気を抜かれたのを思い出す。普段はアイドルの話ばかりする宮地さんがどんな女の子を好きになるのか気になって「なんて名前ですか?」と聞いた。「名字名前」「えっ」またしてもあっさり教えてくれたのはいいけど、聞き覚えのあり過ぎる名前に困惑する。同じクラスで結構仲の良い女の子だ。特別美人という訳でもないが、素直で裏表もなくて割りとモテる。本人は無自覚だしかなりの天然ボケなのがたまに傷だけど。「良い子っすよね」「…仲良いのか?」「クラス一緒なんで」「ふーん…」あ、宮地さん機嫌悪くなった。分かりやす過ぎる…。相当名字ちゃんのことが好きなんだろうな。俺を睨みながらも羨ましいオーラ全開だ。その後すぐ傍にいた真ちゃんも巻き込んで、宮地さんに協力することが決定していた。まあ面白そうだったし、いいかな。渋るかと思ってた真ちゃんも諦めているようで「やるからには人事を尽くすのだよ」とか言っていた。相変わらずだ。
暫くして名字ちゃんが教室に戻ってきた。どことなく嬉しそうだ。「清志先輩優しいね」ね、って。まさか宮地さんは俺たちにもあんな態度だと思っているのだろうか。名字ちゃん鈍感を通り越して阿呆過ぎる…。「名字ちゃんだから優しいんだと思うぜ」「んー…そうかなぁ」ダメだこれ絶対信じてない。

「そういえば清志先輩、時々私のこと抱っこしたりするんだけど」
「ブフォッ」
「えっ高尾くん?」

抱っこって宮地さん…展開が早過ぎて俺付いていけない。宮地さんが名字ちゃんを抱っこしながら甘やかしてる姿も絶対見たくない。もうそんな関係にまで発展してたの?なのに付き合ってないの?なんで?もしかして有無を言わさずにパワハラ的なアレで言いくるめてんのかな…うわぁ。「俺の名前かわいい」とか連呼してた宮地さんのがまだよかった。みんなで引いてたけど。嫌われたらどうしようとかヘタレてた宮地さんは何処へいったの。
しかし抱っこされても宮地さんの好意に気付かない名字ちゃんもすげぇな。何をどう勘違いしてるのか教えてほしい。というか…付き合ってない人にそういうことされるのは嫌じゃないのだろうか。「抱っことか嫌じゃない?」「清志先輩が嬉しそうだから…嫌じゃないよ」自覚はないけれど、名字ちゃんも相当宮地さんのことが好きなのかもしれない。相手が喜んでくれたらいい、なんて、好きな人相手にしか言えないだろ。
名字ちゃん、俺は心配ですよ。宮地さんからどんな無理強いをされても、全部受け止めちまいそうだもん。吃驚するほど独占欲の強い宮地さんは、正直おかしい。嫉妬深いし、既に名字ちゃんを束縛している気配すらある。多分、いつ気が狂ってもおかしくない。だからどうか、どうか気を付けて。「昨日も、清志先輩がメールくれたの」「よかったね」最後まで、上手く事が運べばいいんだけど。


どうか、お幸せに
(ダメだったら止めればいいだけの話だ)
(名字ちゃんは泣かせたくないよな…)
(友人だからな)
(…真ちゃん珍しいこと言うねぇ)


―――

がっつり高尾視点になってしまいんした…。決して緑間視点忘れてたとか…ソンナコトナイヨ。そしてノリで書くとこうなる。そしてあんまり引いてる感出てないネ。でも終始引いてます。真ちゃんも引いてます。なんか暗い話になってしまいました…ギャグで書くつもりだったのに…。返品交換受け付けます。すいません…。リクエストありがとうございました。


130617
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