私の携帯は人のそれよりずっと、機能を持て余していると思う。一日に何百件とメールをする友達もいるが、私はそういうタイプではない。皆それを知っている為か、いつの間にか些細なことではメールが送られてこなくなっていた。学校のことでたまに連絡が来るか、親からのメールしか受信することがないのだ。女子高生にあるまじき受信量である。気は楽なんだけど、少なからず寂しいという気持ちもあった。
しかし最近は違った。アドレス帳に新しく登録された先輩の名前を見て思わず笑みを溢す。清志先輩がメアドを教えてほしいと言ってくれたのだ。何故かすごく吃っていたけど、あれはなんだったんだろう。まあ気にしなくてもいっか。清志先輩とは学校で会っているが、高尾くんたちみたいに毎日会える訳ではない。校内ですれ違うか、購買でたまに会えるくらいだ。先輩は学校で会えなかった日に必ずメールをくれる。その日の出来事を話してくれたり、私の話を聞いてくれたり。内容は毎回違うけど、友達とのやり取りとは少し違って新鮮だ。メールが来るペースも友達と違ってゆっくりだから安心する。実はお互い学校の課題に取り組みつつやり取りしていたのだ。というか先輩、勉強に集中しなくていいのかな。時々邪魔をしている気分になるが、メールはいつも先輩から来るので気にしなくていいのかもしれない。
それはそうと、昨日の清志先輩はなんだか様子がおかしかった。「昼休み一緒にいた男子、誰?」一通目がこれだったので吃驚したが、まず昼休みに男子と一緒にいた記憶がない。高尾くんや緑間くんとも一緒じゃなかった。「昼休みは一人でしたよ」「嘘。窓から見えた」「そう言われましても…」本当に覚えがないのだ。見間違いじゃないだろうか。というかなんで清志先輩ちょっと怒ってるんだろう。しかし次にきた「髪茶色い男と焼却炉の前にいただろ」という文章で思い出した。確かに焼却炉の前で同じクラスの人に会って、少し話をした…気がする。うろ覚えなのは、相手がしつこく話し掛けてきたせいだろう。私は人見知りだから普段話さない人との話はすぐ忘れてしまうのだ。名前何だっけなぁ…本田くん?その話を愚痴ると、さっきまで素っ気なかった先輩の文章もいつも通りになった。清志先輩どうしたんだろう。課題難しくて苛々してたとか?何故かその本田くんのことを詳しく聞かれたけど、私もよく知らないのであまり答えられなかった。清志先輩、本田くんのこと嫌いなのかな。別に悪い人じゃなさそうだったけど。

「どう思いますか高尾くん」
「どうって…あー…宮地さん小さいなぁって」
「…清志先輩は大きいよ?」
「身長じゃなくてさ」

ため息を吐いて苦笑いをしている高尾くんは「宮地さんと何かあったら言ってね」と念を押してきた。清志先輩と何があるのか知らないけど、高尾くんがいつもより真剣な表情だったので黙って頷いておいた。なんだか恐かったけどどうしたんだろう。私の周りの人はみんなカルシウムが足りてないんだろうか。私のいちごみるくあげようかな。まだ開けていないそれを指で弄っていると、高尾くんはうんうん唸り始めた。本当に大丈夫だろうか。私はどうすればいいですかね。「…名字ちゃん、宮地さんのこと好き?」ゴトン。高尾くんの質問に驚いて、いちごみるくを落としてしまった。開けてなくてよかった。中身は溢れていない。
そりゃ、最初はすごく恐かったけど。でも本当は優しい先輩だって分かって。清志先輩の笑顔が好きになって。先輩が笑うと私も嬉しくなるし、泣かれるとどうしていいか分からなくなる。それは、きっと高尾くんでも同じだ。高尾くんの笑顔も好きだし、彼が泣いたところは見たことがないけど、多分同じ気持ちになるだろう。私は高尾くんが好きだ。だから、清志先輩のことも好きなのだろう。「清志先輩も好きだよ」「も?」「高尾くんや緑間くんだって好きよ」高尾くんは気さくで優しいし、緑間くんには何かと助けてもらうことが多くなった。でも何故か煮え切らない高尾くんに不安が過る。もしかして、彼は私のことをそれ程仲の良い友達だと思っていないんじゃないだろうか。「高尾くん嫌なら嫌って言っていいんだよ」「え?」「えっ」どうやらそういう訳ではないらしい。「俺も名字ちゃんのこと好きだよ」「ほんとかな」「あれ?酷くね?」「冗談だよ」思わず笑ってしまうと高尾くんはちょっと困ったような顔をした。彼のそんな表情は滅多に見れないので希少価値が高い。
しかしそんな顔が急に強張って、高尾くんの視線を追って振り返ると、満面の笑みを浮かべている清志先輩が立っていた。どうして。どうして、笑っているのに恐いのだろうか。相変わらず不思議だ。

「ちょ、宮地さん違うって!」
「名前、ちょっとこっちおいで」
「は、はい」
「宮地さんってば!」

言い方は優しいけど恐い。恐いけど、言うこと聞かないともっと恐い気がする。何か言ってる高尾くんを残して先輩について行くと、辿り着いた場所はいつか来た体育館裏だ。清志先輩は後ろを向いたまま何も喋らない。私は…とりあえず謝っておいた方がいいのだろうか。でも理由も分からず謝るのは失礼な気がする。「清志先輩」返事の代わりに先輩は肩を震わせた。
もしかして、何かツラいことがあったのだろうか。また何か溜め込んでるんじゃないか。大きいはずの先輩の背中は、いつもより小さく見えた。後輩に甘えるなんてしたくないだろうけど。それでも先輩を放っておける訳もなくて、勢いよくその背中に飛び付いた。清志先輩は吃驚していたけど、私を振り払うこともせずされるがままだ。やっぱり大きい。でも、さっき小さく見えたのは気のせいじゃない。とても寂しそうだった。「…名前」先輩に名前を呼ばれたて、元気よく返事をすると振り返って笑ってくれた。「高尾は、いいのか?」はい?清志先輩の質問の意味は、私の頭では理解出来なかった。確かに高尾くんは置いてきちゃったけど、暇だから喋っていただけだし、高尾くん自身もそんなに気にしてないと思う。首を傾げるだけの私に「高尾が好きなんだろ?」と言った清志先輩は何故か泣きそうだった。「高尾くんも緑間くんも、清志先輩も好きですよ」先輩の表情に焦ってなんだかよく分からない訂正をしてしまったが、今ので大丈夫だっただろうか。

「高尾と付き合わない?」
「付き合わないですよ」
「じゃあ俺が毎日メールしてもいいの?ウザくないか?」
「メールですか?ウザくないですよ。いっぱい構ってくれて嬉しいです」

なんで高尾くんと付き合うことになってたのかも、どうしてメールの回数が頻繁になるのかも分からないが、清志先輩が嬉しそうなので良しとする。よかった。もう怒ってないみたいだ。何故か前から抱き締められているが気にしない。この前同様、軽く抱き上げられて座り込んだけど気にしない。嫌じゃないし、清志先輩が嬉しそうだから、もうどうだっていいや。「…名前」「はい?」「俺は名前が好きだよ」あれ?私もさっき、清志先輩のこと好きだって言ったんだけどな。「私も好きですよ」「いや、違うんだよ」…一体何が違うんだろうか。気になったが、頭をぐしゃぐしゃと撫でられはぐらかされてしまった。清志先輩はいつも言葉が足りないと思う。…思うだけで言えないんだけど。


(手元のいちごみるく飲みたいな…)


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