つんつん。持っていたシャーペンの先で目の前の消しゴムをつつく。悩む。悩む。悩んでも悩んでも、結局答えは出ないのだけれど。清志先輩へのお返しが決まらないのだ。ああどうしよう。そもそも清志先輩の好きなものって何?…アイドルとか?でも私が詳しくない。それにグッズとかはプレゼントに向かないだろう。既に持っているかもしれないし。
何をあげたら、何をしたら喜んでくれるのか分からない。私は先輩のことを何も知らなかった。だって清志先輩は私のことを聞くばかりで、自分のことはなかなか教えてくれないんだもの。私が聞かないからだろうけど。ああ、悩み過ぎて頭パンクしそう。「名字ちゃん、具合悪い?」高尾くんが心配そうな顔をして話し掛けてくれた。「ううん、考え事」「考え事かぁ…なになに?」相変わらず好奇心が旺盛である。高尾くんなら清志先輩の好きなものとか分かるかな。男の子なんだし少なくとも女の私よりは分かるかも。「清志先輩って、何をしたら喜んでくれるのかな」「あー…」あーって。あーってどういうことなの高尾くん。シャーペンの先を高尾くんの手に向ける。消しゴムと同様につつけば「いてっ」と声を上げた。もう、真面目に聞いてるんだから。

「名字ちゃんが宮地さんにしてあげたいことをすればいいよ」
「分かんないよ…」
「名字ちゃん料理上手っしょ?お菓子とか作ってあげたら?」

料理が上手かは分からないが、毎日欠かさず自分と弟のお弁当は作っている。お菓子も食べたい時に作るくらいはする。うちの母は家事が一切出来ないので、自然とこうなった。弟はいつも美味しいって言ってくれるし、少しは自信を持っていいのかもしれない。私は基本的にかわいい弟のことは信じるのだ。
話が脱線したが、なかなかいいかもしれない。清志先輩甘いもの好きかな。イメージ的には苦手そうだが、高尾くんに聞いてみると甘過ぎるものはダメらしい。「前貰ったクッキーおいしかったー」「いやあれは高尾くんが強奪したんでしょ…」すっごいナチュラルに持っていくから吃驚した。緑間くんには普通にあげたけど。でもおいしいって言ってくれているので良しとしよう。でも手作りのお菓子とかちょっと引かないかな。嫌じゃないかな。清志先輩が潔癖症だったらどうしよう。高尾くんに聞いてみると「ないない!」と言って爆笑していた。別に笑う必要はないと思うけど。まあいいや。「私頑張る」「うんうん頑張ってぇー」実に気の抜ける応援だ。
と、そういう訳で、クッキーを作った。お菓子の本見てたら何を作っていいか分からなくなったので、とりあえず無難に。高尾くんも緑間くんもおいしいって言ってくれたし大丈夫だろう。ただ一つ、問題が。私はこれをどうやって清志先輩に渡せばいいのか。毎日会える訳じゃないし、どこで会えるかも分からない。「高尾くん部活の時に」「渡しません」「なんで」あっさり断られてしまった。虐めなの?清志先輩優しいからメールでもすれば来てくれるだろうけど、自分からメールするのは少し緊張する。携帯を見ながら渋っていると、廊下の方から高尾くんと緑間くんを呼ぶ声がした。あれは…バスケ部の主将さんだ。「大坪さんどしたんすかー」「部活の予定表を配ってるんだ」「あれ?…なんで宮地さんも?」「うるせぇ察しろ」えっ、清志先輩?携帯から目を離し廊下を覗くと、確かに清志先輩もいた。やった、会えた。嬉しい。「清志先輩っ」「名前…!」取り込み中みたいだったが、思いきって声を掛けると嬉しそうな顔をしてくれた。よしよしと頭を撫でられる。これはちょっとした恒例行事だ。

「清志先輩」
「どうした?」
「先輩の為にクッキー作ったんです。嫌いじゃなかったら貰ってください」

小さめのかわいい紙袋を差し出すと、先輩は一瞬固まった。もしかして嫌いだったかな。不安が募ったが、暫くすれば「ありがとな」と言って紙袋を受け取ってくれた。でも何か様子がおかしい。「クッキー嫌いでした?」「嫌いじゃない!」「ほんと?」「ほんと。嬉しい…」よかった。どうやら喜んでもらえたようだ。しかし、なんだか高尾くんが笑いを堪えているように見えるのは気のせいだろうか。大坪先輩と緑間くんは此方を見ないようにしている気がする。どうしたんだろう。変なの。「あのさ、」「はい」「今日、昼飯一緒に食っていい?」「もちろんですよ」清志先輩は嬉しそうに笑ってくれた。私が先輩のお誘い断る訳ないのに。お昼が楽しみだ。
用事が済んだのか、大坪先輩は清志先輩を引っ張って帰ってしまった。清志先輩に会えたしクッキーも渡せたし、本当によかった。…隣で壁をばしばしと叩いている高尾くんは無視してもいいのだろうか。「名字ちゃん…」「な、なに?」「宮地さんっていつもあんなブフォ」途中で噴き出された。せめて喋りきってから笑ってくれたらいいのに。緑間くんに通訳をお願いしたが大分冷めた目で高尾くんを見てから断られた。高尾くんをツボに嵌めたものは一体何なのだろうか。…まあ、いつもみたく些細なことだろう。通常通り放置して次の授業の準備を始めた。

購買に寄ってから体育館裏へ行くと、既に清志先輩が待っていた。おいでおいでと手招きされ、お隣に失礼する。清志先輩のお昼はいつも購買かコンビニで買ったものだ。栄養偏らないのかな?でも先輩は身長の割りに細身だ。羨ましい。身長ちょっとだけ分けてほしい。伸び悩んでいる身長を気にしながらお弁当を開けた。「名前の弁当かわいいな」…確かにかわいさなら幼稚園児のそれにも負けかもしれない。今日に限っておにぎりがパンダだったり、野菜が星やハート型だったりしている。…弟が笑顔で付き合ってくれるのはいいけど、あの年頃でこれを恥ずかしがらないのはどうなのだろう。でもかわいいからいいか。「今日のはちょっと張り切っちゃっただけですよ」「えっ、自分で作ってんの?」「そうです」「すごいな」えへへ、清志先輩に褒められちゃった。嬉しい。昨日の残り物が多いけど。「…何か食べます?」「いいのか?」先輩がお弁当を凝視していたので聞いてみると、肯定が返ってきた。目が輝いてるけどお弁当そんなに珍しいのかな。何でもいいと言うので、唯一残り物じゃない卵焼きを箸で掴み先輩の方へ持っていった。

「先輩、あーんしてください」
「えっ」
「え?」
「いや…そう、だよな…うん」

何故か頭を抱えながら悩んでいる様子だ。清志先輩の行動は本当に時々不可解である。別に嫌ではないけれど。悩んだ結果「ごめん、やっぱやめとく」と申し訳なさそうに言われた。私はどっちでもよかったからいいけど、先輩はどうしたのだろう。卵焼き嫌いだったかな。結局持ち上げた卵焼きは私の口に入った。あ、ちょっと甘過ぎたかも。あげなくてよかった。「あれ?名前、いちごみるく売り切れてた?」私が飲み物のパックにストローを刺すと、清志先輩はいつもとの違いに気付いた。私が持っているのはミルクティーだった。でもいつも飲むいちごみるくが売り切れてた訳じゃない。「清志先輩がくれたから、好きになっちゃったんです」なんだか照れ臭かったが素直にそう言うと、清志先輩は真っ赤になった。先輩も照れちゃったのかな。思わず笑ってしまうと、いつもより少し乱暴に頭を撫でられる。髪がぐしゃぐしゃになるけど、やっぱり清志先輩に撫でてもらうのは好きだ。未だに笑っていると「なんでそんなにかわいいんだよ…」清志先輩が小さく呟いた。もしかして仕返しだろうか。そう考えようとしても、かわいいという言葉に反応してしまう私は所詮夢見る女の子だ。


(最近の先輩は少し意地悪だ…)


130513
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