「名前さん名前さん」
「なんですか聞こえているのです」
「宮地さんとなんかあったの？」
「何もありません」
「嘘。じゃあなんで昼休みに俺なんか誘うんですか」
「和成は嫌だったのですか」
「嫌じゃないけど…」
「…本当に、何もないから困っているのです」
「え、何もないのにケンカしてるの？」
「ケンカでもありません。私が少し、…不安定なだけです」
「ヒステリック？」
「はい」
「え…全然見えないんですけど」
「当たり前です。和成に当たっても仕方ないので」
「名前さんが少しでも楽になるなら当たってくれていいっすよ」
「…腹が立つのです」
「なんで！？俺なんか不味いこと言った！？」
「（このたらしめ）やっぱり和成に当たります」
「いたい！額叩かないで！」

「うーん…じゃあ名前さんは宮地さんの気持ちに気付いてたってこと？」
「はい」
「えぇぇ…付き合っちゃえばいいのに。名前さんも宮地さんのこと好きでしょ？」
「好きです。でも、」
「でも？」
「…ずっと、好きでいてもらえる自信がないのです」
「…どうして？」
「清志は私みたいな子とも仲良くしてくれた優しい人です。優しい人は優しくされます。いろんな人に好いてもらえます」
「宮地さんそんな優しいかな…」
「優しさは目に見えるものだけが全てではありません。和成には少し厳しいかもしれませんが、清志は和成のこともちゃんと考えてくれています」
「…名前さん、ほんと宮地さんのこと好きですね」
「はい。…でも、そんな清志と私は、とても不釣り合いなのです」
「そんなことない！」
「あるのです。私は清志の足元にも及びません。低脳で生ゴミのようなものです」
「いやいやいやいや」
「そんな人間…いえ、生ゴミといては腐敗してしまいます」
「ちょっと待って名前さん、真剣な話しだったのにどんどんツッコミどころが多くなってきたよ！？」
「…それに、人間とは、心変わりする生き物なのです」
「心変わり？」
「はい。いつ私のことが好きじゃなくなってもおかしくありません」
「…名前さんは、宮地さんのことそんないい加減な人だと思ってるの？」
「清志じゃなくて、私の問題です。意地っ張りで素直じゃなくて、かわいいところもありません。他の女の子の方がいいとすぐに分かるはずです」
「宮地さんは名前さんのそういうところ、全部ひっくるめて好きなんだと思いますけど。それに名前さん、自分で思ってるよりずっとかわいい」
「かわいくないです」
「かわいいって。宮地さんに嫌われるのを怖がって逃げちゃって…名前さんのナイーブなとこ、結構かわいいっすよ」
「…鳥肌立ちました」
「酷い！！…でも、すっかりいつも通りって感じ」
「…はい」
「弱って参っちゃってる名前さんもよかったけど！」
「本当に気持ち悪いのです…」
「えー、残念」
「…和成」
「はい？」
「ありがとうございました。人に励まされたのなんて、初めてだったのです」
「え、初めて…？」
「今まで、人との関わり合いは避けてきました。だから傷付くこともなく、励ましてもらうことも、励ましてくれる人もいなかったのです」
「…名前さん、本当に一人だったんだ」
「そんな顔しないでください。自ら一人を選んでいました。だから辛くも、悲しくもなかったです」
「でも、寂しかったんじゃ…」
「前はあまり感じませんでしたが、今思えば、味気ない日々だったと思います」
「今、楽しいですか？」
「はい。清志の隣にいるだけで、私はとても幸せです」
「っ…」
「…何故、泣いているのですか」
「だって、名前さんが幸せなの、なんか嬉しくて…！」
「…私、和成に言っておかなくてはならないことがありました」
「なんですか…」
「いつも嫌いとか言っちゃいますけど、本当は和成のこと、すごく好きなのです」
「！」
「後輩という存在にも初めて接しました。和成は優しくてかわいくて、なんでも許してくれて、今日だってたくさん励ましてくれました。大好きなのです」
「名前さんっ、どんだけ俺を泣かせるの…！」
「言える機会がないと思うので言っておきました。これからも酷いこと言うと思いますが…私のこと、嫌わないでいてくれますか？」
「当たり前っしょ…」
「ふふ、和成泣き過ぎだよ」
「…名前さんの笑顔、初めて見た…あと、敬語…」
「気を許すと、こうなるの」
「宮地さんの前でも？」
「結構前からこうだよ」
「…二番手かぁ」
「嫌？」
「全然！俺も名前さんのこと、好きっすよ」
「ありがとう和成。…私と、お友達になってくれますか？」
「はい！」


（清志のこと、ちゃんと考える）
（大丈夫！宮地さんと何かあっても、俺がいますから！）
（真に受けるよ？）
（…受けてくれないパターンですね）


130209