周りのかわいい女の子たちと自分が少し違うのに気付いたのはずいぶん前の話だ。かわいく振る舞うのもきれいに着飾るのも私には無理だった。気が引ける。気持ちが悪い。他の子は普通にやってのけることだけど、私がするのは違う気がして。学校では女子からも男子からも、一歩引いた位置にいる。クールだとかカッコイイとか、何故かそんなレッテルを貼られるが、私はただ捻くれているだけだ。まあ、かわいいよりは幾分かましだ。
…なんて、回想は別に流してもいい。本題という問題はここからである。
今私の目の前にいるのは高尾和成。秀徳高校一年生だ(ちなみにだが私は二年生である)。彼は言わずと知れたバスケ部のレギュラー部員で、聞いたところ、なんか視野が広いらしい。曖昧なのは彼が時々早口になるせいだ。私は必要最低限しか人と話さないからか、彼の早口は大体何言ってるのか分からない。
そんな高尾和成は、何故か毎日のように私のクラスへやって来る。私が聞いていてもいなくても、にこにこと楽しそうな笑顔を浮かべて、一人言に近いくらいただ話しをして帰っていくのだ。もう訳が分からない。そして高尾くんは今日も懲りずにやって来た。

「名前先輩、今日は本読まないんすか?」
「…昨日、読み終わった」
「早いっすね、面白かった?」
「まあ、それなりに」

私の無愛想な対応にも動じない。むしろ嬉しそうに笑うのだ。「難しそうだったけど俺も読もうかな」高尾くんは頭が良いらしいから、きっと難なく読めるはずだ。
彼の然り気無く謙遜するところはあまり好きじゃない。私は高尾くんのことを完璧だと思っている。勉強も運動も出来て、明るい性格で、きっと友達も多い。そんな彼に謙遜されると自分の考えが間違っているようで、何故か腹が立つのだ。否、謙遜せずに自慢されたらされたで腹は立つのだろうけど。
――とにかく、私は自分の考えを否定されるのが嫌いだ。自分が正しくても間違っていても、人に口を出されたり訂正を求められることも全部、全部嫌いだ。そんな器の小さい人間なのだ私は。
その点についていうならば、高尾くんにはあまり嫌悪感を感じない。鬱陶しいとか面倒という概念を捨てれば、彼は割かし好きな人間だ。私の意見を聞いてくれる。でも口出しはしない。それでも、自分の意見ははっきりと言うのだ。まあ、残念ながら彼の意見をまともに聞いたことはないのだけど(早口だったし)。
そういえば、本について話しをしていたのを忘れていた。高尾くんはタイトルが思い出せないらしく、さっきから頭を捻り続けている。一体、私はどのくらいの時間を無駄にしていたのだろうか。いや、高尾くんについて考えていた今の時間は本当に無駄だったのだろうか。分からない。彼はきっと教えてくれない。私を困らせるのが好きだから、何日も何日も悩ませて、私を苦しめるのだろう。

「名前先輩?」

そうやって如何にも「純粋です」みたいな顔しちゃって。本当は私の中の何かを狂わせる程、悪魔みたいな性格をしているくせに。「先輩もタイトル忘れちゃった?」首を傾げるその仕草は、女の私よりも遥かに様になっていた。かわいらしくて、憎たらしい。頭を撫でてあげたい、持てる限りの力で殴ってやりたい。色んな感情が入り交じった結局、悩んでいた彼に本のタイトルを教えてあげた。嬉しそうに微笑んで「帰りに買ってくる!」なんて宣言した高尾くんに何故か胸が高鳴ったような気がした。普段は一定のリズムを保っている鼓動も、少し速く感じる。
早めの不整脈か。それとも血が騒ぐ的なあれで、やっぱり高尾くんを殴りたいのだろうか。真意は分からない。それに若干どうでもいい。「買わなくても、私の貸してあげる」どうせ、二回は読まないでしょ。そんなのもったいないじゃない。高尾くんの嬉しそうな笑顔にまた鼓動が速まるのを感じた。


かわいさに惹かれる
(俺名前先輩が好きだから毎日来るんだよ?どうして気付いてくれないの?もしかして気付かない振りしてるの?どうなの?ねぇ先輩、)
(え?ごめん、ぼーっとしてた上に聞き取れなかった)


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