優しいところも好きなんだけど、なんだかそれは本当の彼じゃない気がして。そう思うと、私には心を開いてくれてないというのがはっきり分かってしまった。怒鳴られたり酷くされたい訳じゃない。それとは違うのだけれど、やっぱり本当の彼を見せてほしかった。
休憩時間になると、高尾くんが近付いてきて「宮地さんにタオルあげてください」なんて言った。高尾くんの目には、優しい宮地くんが面白く映るらしい。確かに宮地くんはよく高尾くんに怒鳴ったりしている。でも、本当に怒っている訳じゃなくて、一種の愛情表現だと思う。じゃれあってるみたいな、楽しそうな声がいつも聞こえてくるのだ。羨ましい。
勝手に高尾くんに対してのジェラシーを感じていると、「早く早く!」と急かすような声が聞こえてきた。どうやら一人で考え込んで、すっかり本題を忘れてしまっていたらしい。それにしても、高尾くんは今日も元気だなぁ。
高尾くんの分も持って宮地くんの傍へ向かう。しかし私を見た彼は、一瞬にして表情を堅くした。私の前ではいつもこうだ。あまり仲良くしたくないのだろうか。高尾くんと私が並んでいるのも、よく思ってないのかな(別に取ったりしないのに)。

「宮地くん、タオル」
「…ありがと」
「ぶっ!宮地さんがっありがとって…!」
「高尾お前ぶっ飛ばすぞ!!」

噴き出した高尾くんに、宮地くんは少し顔を赤くしながら怒鳴った。相変わらず彼は物騒だ。でも、不思議なことに私は今の高尾くんが羨ましく感じる。
確かに宮地くんは「ありがとう」なんて滅多に言わない。感謝を伝えない訳ではなく、ニュアンスが違うだけで大坪くんとかに「サンキュ」と言ってるのは見たことがある。なんだか暴君なイメージがあるらしいが、私は宮地くんに暴言なんて吐かれたことがない。怒鳴られたこともない。…つまり、コミュニケーションが取れていないということじゃないだろうか。というか毎度毎度表情が堅過ぎる。
最初はあまり違和感を感じなかったのだけれど、宮地くんイコール優しいというイメージはないと言われた。高尾くんに。そういえば、大坪くんや木村くんに「宮地くん優しいよね」と言った時は少しだけはぐらかされたのを思い出した。やっぱり、宮地くんは私に相当気を使っている。どうしたらもっと気軽に接してくれるのだろうか。

「あ、高尾くんもタオル」
「…名前さん元気ない?」
「え、そんなことないよ。元気だよ」
「顔赤いし熱あるかも」

大丈夫だと言ったにも関わらず、高尾くんに手を引かれ、私の額に自分のそれをくっつけてきた。近い、近い!彼は所謂イケメンに分類されるので、すごく心臓に悪い。これ、絶対顔赤くなってるな…年上なのに恥ずかしい。
「保健室行きます?」…高尾くん、それは離れてから言ってくれないですかね。未だにくっついている彼に半ば呆れていると、黙っていた宮地くんに肩を掴まれ、高尾くんと無理矢理引き剥がされた(離れたかったからいいけど)。高尾くんも私も唖然としている。なんだか怒っている宮地くんは、高尾くんに怒鳴る訳でもなく、何故か私を軽々持ち上げて体育館を出たのだ。

「み、宮地くん!?お、重いから下ろして!」
「煩い、重くない。具合悪いならじっとしてろ」

あ、あれ?宮地くんコワイ。宮地くんに煩いとか言われたことなかったし、いつもは私の話し聞いてくれる。少しだけ不安は感じたが、横暴な宮地くんは高尾くんたちと接する時の対応に近い気がした。やっぱり嬉しい。
と、喜んでいる場合でもなかった。宮地くんは私が具合悪いと勘違いしているようだ(だから抱えられてるのか)。「具合悪い訳じゃないよ」そう言っても、何故か疑いの目を向けられた。とりあえず下ろしてほしいことを悲願すると、本当に渋々といった様子で下ろしてくれた。暫く振りに地に足がついた。長時間離れていたと錯覚するくらい、宮地くんに抱えられたのは心臓に悪かったのだ。彼は親切でしてくれたのだろうけど、恥ずかしくないのだろうか。

「さっき顔赤かっただろ」
「あれは、その…高尾くんが…」
「高尾?」
「顔、近かったから、恥ずかしかっただけだよ」

そう言うと、宮地くんの顔はますます険しくなった。騙した訳じゃないんだけど、やっぱり怒るよね…ここまで重かっただろうし。高尾くんのせいだけど、ほぼ高尾くんのせいなんだけど!まあ彼も悪気があった訳じゃない。最初のドリンクのくだりは悪気全開だったと思うけど。

「高尾のこと好きなの?」
「いや好きといいますか…かっこいい人にされたら無意識にそうなるよ」
「…なら、」

宮地くんは何故か私を廊下の壁に追いやって、逃げ場をなくした。いや、たぶん頑張れば逃げられると思うんだけど、宮地くんの威圧感がすごい。いつも大きいなぁとは思ってたけど、この至近距離から見下ろされると常々そう感じるよ…。まあ理由はそれだけではなくて、単純に私が宮地くんのこと好きだから動こうとしないのも後押ししている。
「俺はどう?」宮地くんの顔が近付いてきて、額と額がぶつかった。顔が熱い。真っ赤になっているのは自分でもわかった。でも宮地くんには高尾くんとは違うところがある。きっと私と同じくらい、彼の顔も真っ赤になっているのだ。

「み、宮地くん…?」
「…なんだよ」
「えっと、どうして宮地くんも顔赤いのかなーと思いまして」
「うるさい、轢くぞ」
「…えへへ」

今まで言われたことのなかった宮地くんの口癖に思わず笑みが溢れた。轢くという単語を聞いて笑う人は珍しいだろう(宮地くんも唖然としていた)。宮地くんは私に暴言吐いたら嫌われると思って遠慮してくれていたらしい。やっぱり優しいな宮地くん。大好き!そのまま抱き付くと、宮地くんは少しよろめきながらも受け止めてくれた。
結局保健室には行かず、そのまま体育館へ戻った。「二人とも顔が赤い」と大坪くんに言われて、笑顔で出迎えてくれた高尾くんには「おめでとうございます」と茶化された。最初から狙ってやっていたのか。なんて計算高い。そしてなんてあざとい。
そんな高尾くんに感謝しながら、二人の鬼ごっこを傍観した。


後輩キューピッド
(高尾くんいつから気付いてたの?)
(いやもう宮地さんがちょー分かりやすくて)
(死ね!)
(宮地くんまた顔真っ赤だよ)


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