(高尾視点)
※某プリンスさまの名前が出てきます。


宮地さんと名前さんは、実に残念な人たちだと思う。宮地さんは背も高くて顔も良いから、本気を出せば彼女は選り取りみどりなはず。名前さんだって美人系ではないが、目が大きいし、笑ったらこれ以上ないってくらいかわいい。所謂ゆるふわ系だ。
そんな二人のどこが残念なのか。端から見たら検討もつかないだろう(黙って並んでれば美男美女カップルだし)。だが問題は中身であって、趣味、というか…。

「おいコラ、お前今なんつった」
「宮地の推しメンの子よりユリタンがかわいいって言った」
「んだとてめぇぇえ!!」

いつもの勢いで宮地さんがキレたかと思えば、名前さんは「またか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。いや、またかって、アンタが宮地さんに喧嘩売ったんでしょ!気付け天然!原因はどう考えても宮地さんの推しメンを貶した名前さんにあると思う。…と、このように宮地さんは重度のドルヲタなわけだ。推しメンを少し悪く言われただけでキレます、マジで。
次に名前さんの残念なところも見せてあげたいんだけど、基本的にあの人はこっちから話しを振らないと会話をしない。宮地さんとの間に割って入るのは気が引けるけど、そろそろ止めないと不味いし、今日はツッコミ役になってくれる大坪さんもいない。

「あー…名前さん!昨日バラエティーに音也クン出てましたね!」
「観た?」
「観ました!」
「…音也くんかっこよかったね」

ぽっ、と頬を赤くして言う名前さんは完全に乙女モード全開である。これが普通の女の子ならよしとしよう。でも考えてみてほしい。この人が恋している相手は、今をときめくアイドルだ。何を隠そう、名前さんは宮地さんを越える程のドルヲタだった。微笑みながら話しをしてくれる時は天使みたいなのに、その内容の9割くらいはさっき言った音也クンで構成されている。喋らなければかわいいのに、喋らなければ…。本当に、残念です、俺は。
話しを振ったのは俺だが、昨日の音也クンのことを話し出した名前さんはもう止まる気配がない。その幸せそうな顔は目の保養になるけど、そろそろ誰か止めてくれないかな!
適当に相槌を打っていると、後ろにいる宮地さんの表情がだんだん険しくなっていくのがわかった。この人の一番面倒なところはここだ。なんだかんだ言っても、名前さんが好きで好きで仕方ないところ。音也クンの話しだけでも不機嫌になっちゃうくらいなんだから、もう相当だ。推しメンより好きなくせに、なんで素直になれないかな。ああ、うちの部ってツンデレが多い。

「…音也、なんて顔だけだろ」

うわ宮地さん、珍しく言い返したと思ったけど、それはない!その言い方はない!いくら妬いてるからって、名前さんまでキレたらどうするの!
内心ひやひやしていたのだが、名前さんは不快な表情一つ見せない。あれ、宮地さんみたいに怒ったりするのかと思ってたけど、何も言い返さないの…?それどころか、きょとんと不思議そうな顔で宮地さんを見つめている。…ちなみに見つめられてる宮地さんは真っ赤になっている(おもしろい)。

「あのー…名前さん?」
「なに」
「いや、宮地さんみたいに怒んないのかなーって思って…」
「…なんで?」

なんでって…そりゃ、自分の好きなもの馬鹿にされたら怒るだろ。俺だってバスケとか友達を馬鹿にされたら怒るし、宮地さんがキレたのも気持ちくらいは分かる。だから、名前さんの反応は理解できなかった。それは宮地さんも同じらしい。
彼女は逆に俺の言ったことが理解できなかったのか、「うーん」と唸りながら何かを考えている。やっぱり喋らなければこの人はかわいい。
暫くして何等かの答えが出たのか、顔を上げてにっこり笑ってみせた。これは不意打ちだ。俺も宮地さんも思わず顔を赤くしてしまった。

「だって音也くんの良さ、人に理解してもらおうと思わないし。私は音也くんが大好き。あとはどうでもいいの」

…この人はすごい。何がすごいかって、そこまでアイドルに入れ込むこともだけど、好きなものを他人に押し付けないところだ。人間には誰しもそういうところがある。「私が好きなんだから悪く言わないで」とか「俺が言ってるんだからお前も好きになれ」みたいな。少しだけ押し付けがましいところ。そんな面倒なところが、この人には存在しないようだ。
まあ、問題があるとすれば「あとはどうでもいいの」発言だろう。彼女は音也クンしか見えていない。あとはどうでもいいらしい。俺も、宮地さんも、宮地さんの推しメンも。これが普通の人に恋する健気な乙女だったらグッときたのに、相手がアイドルだもんな…。
…とりあえずショックを受けている宮地さんをなんとかするか。


残念な人たち
(宮地さん、そんなに落ち込まなくても)
(うるせぇ轢く、刺す、焼く)
(とばっちり!)
(音也くんソロデビューか…!)
(名前さんちょっと黙って!)


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