緑間くんは怖い。大きいからとかそういう見た目的なものもあるけど、それより言うことや口調や視線が怖い。
前に黄瀬くんと喋っていたら何だかすごく理不尽な理由で怒られたし、黒子くんと一緒にお昼ご飯を食べていた時も追い出されてしまった。…所謂、虐めってやつだろうか。緑間くんに嫌われるようなことをした覚えはないけど、きっと気に入らないところがあるのだろう。気に入らないなら、話し掛けなければいいのに…。

「そんなの気にしなくていいんスよ!緑間っちが勝手に言ってるんだから」
「だって私が何かしたんだったら謝らなきゃいけないし…」
「名前っち優しー!そういうとこ、ほんと尊敬するっス!」

そう言った黄瀬くんに頭を撫でられる。本当に尊敬しているのだろうか。言っていることとやっていることが噛み合っていないような気がする。
…そんなことより、こんなところを黄瀬くんのファンに見られたら殺されてしまう。自分の頭の上にあった黄瀬くんの手を丁重に振り払って少し距離を取った。黄瀬くんに悲しそうな声を出されてしまったが、いつものことなので流してしまう。
めそめそと泣いたフリをしている黄瀬くんを宥めていると、私の苦手な緑色の髪が近付いてくるのが見えた。

「またその女と馴れ合っているのか」
「…そういう言い方、やめてもらえないっスか」
「間違ったことを言った覚えはない」
「彼女には名前ちゃんっていう可愛い名前があるんスよ」

緑間くんを見つけた瞬間、思わず黄瀬くんの後ろに隠れてしまった。黄瀬くんは緑間くんに言い返してくれたけど、きっと何を言っても無駄だと思う。彼は他人に言われて素直に頷くような人ではない。それは尊敬に値すると思うけど、それ以前に私の中の苦手意識が強過ぎる。黄瀬くんの体に隠れていて見えないが、きっと緑間くんの表情は良いものでない。

「人の顔を見るなり黄瀬の影に隠れるなんて失礼だろう。そういうところが気に入らないのだよ」
「緑間っちが意地悪するからっスよ!」
「お前が甘やかすから調子に乗るのだよ。一人では何も出来ないのか」

嫌だ、聞きたくない。どうして緑間くんは私の嫌がる言葉がピンポイントでわかるんだろう。皮肉屋…。
何故か悲しくなって、両目には既に零れそうな程涙が溜まっている。零れると同時に我慢できなくて鼻を啜ると、それに反応して黄瀬くんが振り返った。「ちょっ、名前っち!?泣かないでほしいっス!」そう言って焦る黄瀬くんは、本当に優しい。黄瀬くんに一言謝って、二人の前から走って逃げた。緑間くんの言う通り、失礼だと思う。涙を流しっぱなしにしながら走って屋上に辿り着いた。駄目だ、緑間くん超怖い。

「…名字、」
「!」

名前を呼ばれて振り返ると、さっきまで黄瀬くんと一緒にいた緑間くんが後ろにいた。どうして、何しに来たの。心の中でそう思っても、どうせ口に出せない。あと目つき怖い。
すぐに目を逸らしたけど、緑間くんは何も喋らない。ほんと、何しに来たんだろう。

「名字」
「は、い…?」
「俺のことは嫌いか」
「は…」

その質問の仕方は、おかしいんじゃないだろうか。嫌っているのは私じゃなくて緑間くんの方で、だから嫌なことばっかり言って…。
緑間くんの言葉に混乱していると、その様子を見ていた彼からため息が放たれた。呆れられたのか。…自分が混乱させてるくせに。なんだか理不尽に聞こえたそれに心の中で文句を付けていると、急に緑間くんの顔が怖くなった。傍から見たらただのイケメンなんだろうけど、眉間に皺寄せてて怖いから!

「言っておくが、俺はお前が嫌いなわけじゃない」
「………え、」
「今の間はなんなのだよ」
「………。」
「…頼むから泣かないでくれ」
「きゃあ!?」

突然腕を引かれたと思ったら、緑間くんに抱き締められていた。いつも通り怖いとは思ったけど、不思議と抵抗は出来ない。それから暫くして「鈍臭くて見ていられない」「黄瀬と仲良くし過ぎだ」とか、いろいろ悪口も言われた。最初のは反論出来ないけど、黄瀬くんと仲が良いと悪いのだろうか。

「…まだわからないのか」
「何、が…」
「お前が好きだと言っているのだよ!!」
「!?」

いきなり大声を上げたのにも驚いたが、その言葉の意味を理解して顔に熱が集まる(緑間くんも真っ赤だ)。というか、告白にしても遠回りし過ぎだと思うんだけど…。今日のも今までも、全部が愛情の裏返しで。さっきのだって黄瀬くんに嫉妬してくれたのだろう。
素直じゃないとかそんなレベルの話じゃない。まるで小さい子供みたいだ。

「…どうすれば、お前は俺を好きになる?」
「………た、ら」
「なんだ?」
「優しく…して、くれたら…」
「…善処しよう」

緑間くんの悲しそうな顔にやられて、思わずそんなことを言ってしまった。これで優しくなってくれたらそれもいいけど、付き合うのは…正直困る。今まで避けてきた相手と、どんな気分で付き合えばいいと言うのだ。
こちらは真剣に悩んでいるというのに、彼は突然手を差し出して「次の授業が始まるぞ」なんて言った。その手は、繋ごうという意味なのだろうか。教室までこれで行ったら、確実に噂になる。でも断るのも怖い。…やっぱり緑間くんが怖いというのは変わらないのかもしれない。


苦手な緑色
(名前、荷物を持ってやるのだよ)
(え、自分で…!)
(黙って持たせろ)
(緑間っち、横暴なところは変わってないっスね…)


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