食堂で昼食を取っていると、廊下から賑やかな笑い声が聞こえた。きっと一年は組のよい子たちだろう。いつも仲良しで結構なことだ。今日は仕事の進み具合が良かったせいか、普段来る時間よりも大分早めになってしまった。一年生と食事が取れるなら、てきぱきと仕事をこなすのも良いものだ。
予想通り水色の忍装束を着た一年生たちが食堂に入ってきた。先頭を歩いていた庄左ヱ門が私に気付いて手を振ってくれる。此方も軽く振り返すと、みんな揃って私の周りを囲んでくれた。相変わらず、一年生は可愛いなぁ…。

「名前さん今日は早いですね!」
「仕事が早く終わったの」
「一緒にご飯食べてもいいですか?」
「もちろん」

嬉しい提案に笑顔を返すと、みんな大急ぎでおばちゃんにご飯を貰いに行った。そんなに急がなくたって、お昼ご飯は逃げないのに…。それでも元気いっぱいな一年生たちは可愛くて、ついつい口元が緩んでしまう。
それぞれが違うメニューの昼食を持って、席を取り合いながらも私の近くには乱太郎、きり丸、しんべヱ、庄左ヱ門、兵太夫が落ち着いた。しかし、どういうわけか私ときり丸の間の席が何故かぽつんと空いている。

「どうして一つ空けるの?私の隣嫌?」
「そんなわけないっすよ!もうすぐ来ますから!」
「うん?」

何が来るのかわからないけど、きり丸がそういうならまあいいか。みんなに合わせて本日二度目のいただきますをした直後、昼食を取りに来たであろう土井先生がひょっこり現れた。あ、いただきますしちゃった。この時間差なら待っていれば良かったなあ。きり丸が驚いている先生に「先生も早くー!」と声を掛ければ、すぐにご飯を持って此方に来てくださった。

「先生、名前さんの隣取っておきましたよ!」
「き、きり丸!」
「こんにちは土井先生、お仕事は終わったんですか?」
「え、ええまあ…」

座るのを躊躇っていたようなので、「私の隣でよければどうぞ」と勧めてみた。先生は戸惑いながらも座ってくれて、は組のみんなは何故かにやにやしている。…何か面白いものでもあったのかな。
不思議に思いつつも箸を進めていると、目の前に座っていた兵太夫が「あっ!」と驚いたような声を上げた(こっちが驚いた)。

「名前さん、玉子焼き食べてあげますっ!」
「あ、ありがとう」
「嫌いなんですか?」
「いえ、身体に合わないみたいで…体調を崩してしまうんです」
「土井先生の好き嫌いとか違うんすよー」
「きり丸!!」

にやけているきり丸の顔を土井先生が引っ張ったり持ち上げたりしている。うん、痛そうだ。
目の前で口を開けている兵太夫に玉子焼きを食べさせてあげると、土井先生をはじめは組のみんなが驚いたような顔をした。あれ、何か変なことしたかな。気にせず残りの玉子焼きも兵太夫に食べてもらおうとしたが、みんなから勢いよく「待った!」と声が掛かった。いや、何をどう待てというんだろうか(土井先生まで怖い顔…)。

「な、なんでしょうか…?」
「兵太夫ずるいぞ!」
「僕も名前さんに食べさせてほしいです!」

思いもよらない抗議に、思わず顔が引きつってしまった。自分で食べても人に食べさせてもらっても、そんなに変わらないと思うんだけど…。他の席からも一年生が集まって来てしまって、結局一つ残っている玉子焼きを誰が食べるか、じゃんけんで決めることになった。…自分の定食に玉子焼きある子、いるよね…?

「土井先生もやりますかー?」
「な、何を…!」
「玉子焼き好きなんですか?」
「もー名前さん、そうじゃなくて…」
「余計なことを言うな!」

きり丸はまた知らぬ間に何かやらかしたのだろうか。今度は頭を叩かれていた。というか、きり丸はなんて言おうとしたんだろう。
そんなことに気を取られていると、すでにじゃんけんは始まっていた。みんな目が必死なのは気のせいだろうか。まあ、最終的に玉子焼きが片付けばそれでいいか。


恋を知らない人
(気付いてもらえるといいっすね)(だから余計なことを…!)(きり丸、後で一緒に図書室行こう)(いいですよ!)



120426
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -