仕事も少なくなった午後に一人で学園内を散歩していると、四年は組のタカ丸に声を掛けられた。相変わらず、とぼけた声してるなぁ…。そこが彼の魅力でもあるのだろうけど、緊張感に欠けるというか、気が抜けるっていうか…。
少し離れたところからおいでおいでをされたので、仕方なく近付くことにした(相変わらず私のこと年上だと思ってないな)。

「何?」
「髪結わせてー?」
「やだ。タカ丸早いから怖い。はさみの音も無駄に怖い」
「じゃあ切らないから!結ぶだけ!」
「…切ったら罰金だからね」

タカ丸に切られるのはちょっとしたトラウマになり兼ねないんだよ。可愛い顔してるけど髪の毛に関しては執着心すごいし。
半ば呆れ気味でタカ丸の前に座ると、纏めていた髪を解かれた。ゆっくり櫛を通してくれるのはいいんだけど、何故か嫌な予感がするんだよね…。その予感は嫌という程的中して、肩の下辺りでちょきん、なんていう音が聞こえた。

「切った!切った!やりやがったなこの野郎!!」
「ちょっと痛んでたから切っただけだよ」
「ちょ、タカ丸顔怖い!可愛いけど怖い!」

きっと枝毛かなんかを切ったんだろう。一本か二本…。でもさっき切らないって言ったじゃないか!罰金だよ!しかしタカ丸は抗議に全く動じず、「早く座って」と追いつめてくる。やだこの子怖い。
そんなタカ丸に追い込まれていると、門の方から小松田さんの声がしてきた。あの人に助けを求めたところで無駄だろうな…(タカ丸の黒さには勝てない勝てない)。誰かと話しているみたいだけど、今日誰か来る予定あったっけ。

「名前さーん」
「無理無理無理!」
「そんな我が儘言わないでよー…あ、利吉さんだ」
「えっ」

タカ丸に言われて門の方を見ると、確かに利吉さんが来ていた。…こっち見てるのはいいんだけど、若干険しい顔をしているように見えるのは気のせいだろうか(視線痛いよ)。
とにかく、声くらい掛けてもいいだろう。「利吉さん助けて!」と大声を出せば利吉さんは何故か笑顔になって駆け付けて来てくれた。

「なんで笑ってるんですか!」
「いや、名前ちゃんに助けを求められるなんて思ってなくて」
「人の不幸を笑ってるよこの人」

「そういうわけじゃないんだけど」と言う利吉さんの顔はなんだか残念そうだったけど、とにかく助かってよかった…。またトラウマが増えるところだったからね。
利吉さんの後ろに隠れていると、タカ丸が「どうしてさっき怖い顔してたんですか?」なんて失礼なことを聞き始めた。ば、馬鹿かこの子!人の事情に首突っ込むんじゃないよ!利吉さんも苦笑いだし、やっぱり不味いこと聞いたんだ…。

「そりゃあ…君が名前ちゃんに迫ってるのかと思ったからね」
「は?」
「あー、利吉さんヤキモチですねー!」
「…そうだよ」
「…は?」

あ、これ二回言っちゃった。そっか、利吉さんがヤキモチ…。私のこと好きでいてくれてるんだもんね、そりゃあヤキモチも妬く、よね…。
勝手に恥ずかしくなっていると、突然利吉さんに手を引かれてタカ丸の前から連れ出された。うん、助かった。助かったんだけど…。

「利吉さん、顔赤いですよ」
「…気付かないフリしてくれてもいいんじゃないかな」
「耳まで真っ赤です」

少し照れたりするくらいならこれまでにもあったけど、こんなに真っ赤な利吉さんを見るのは初めてだ。いつも余裕ぶってるのに、案外可愛いところあるんだなぁ…。
それにしても、タカ丸相手にヤキモチ妬くってことはこの人相当嫉妬深いな(イメージと全然違う)。もっと大人で遠い人かと思っていたけど、そういえば私と二つしか変わらないんだ。そう再認識すると利吉さんの見方も変わってくるかも…。

「何?」
「利吉さん子供みたいですね」
「…子供みたいで悪かったね」
「別に悪口言ってるわけじゃなくて…私、さっきみたいに感情を表に出してくれる利吉さんの方が好きです」
「………え?」

利吉さんの目が真ん丸になった。やっぱりさ、茶目っ気って大事だよね(小松田さんみたいなのは御免だけど)。利吉さんは完璧過ぎて、好きだとか言われても現実味がない。というかそれ以前に、恋愛対象にも入らない。
軽く説明してみると、利吉さんは納得したようなしていないような顔をした。む、せっかく人が説明してあげたのに…。

「…感情は十分出してるつもりなんだけど」
「いつも冷静沈着じゃないですか」
「そう見えるだけだよ。毎回名前ちゃんに告白してるけど、結構緊張してるから」
「そうですか」

拗ねたように言う利吉さんが可愛くて思わず笑っていると、呆れたようなため息が聞こえた。
いつもと違う利吉さんも変だけど、そんな利吉さんを見て喜んでしまう私も十分変だ。もしかすると、もう彼の毒気にやられてしまったのかもしれない。


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(名前ちゃん私のこと好き?)(言葉の綾です)(笑顔で言われるとつらい…)(冗談は程々にしてくださいね)



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