「名前さーん!」

久々の休みに事務室で油を売っていると、一年は組の乱太郎、きり丸、しんべヱが訪ねてきた。なんだろう、また遊びのお誘いかな?
理由も聞かないまま外に連れ出されて、やってきたのはグラウンド前。一体何をするのかと思えば、目の前には手裏剣の的が用意されていた。

「…で、何かな」
「私たちに手裏剣教えてください!」
「山田先生ってば合格点くれなくて!」
「明日合格しないと、また怒られちゃうんです!」
「はぁ…」

なんとか状況はわかったけど、手裏剣ねぇ…。暫く投げてないから、まず的に当たるのかも不思議なところだ。
しかし気持ちとは裏腹に体は憶えていたようだ。とりあえず乱太郎に借りて投げてみた手裏剣はぴたりと真ん中に刺さった。うん、ちゃんと真ん中に投げれるじゃないか。
教え方など詳しいことはよく知らないが、投げる時の姿勢やコツを三人に教えてあげた。昼を過ぎるくらいにはかなり上達したので、後は自主トレでなんとかなるだろう。

「「「名前さん、ありがとうございました!」」」
「どーいたしまして」

さて、これからどうしようかな?生徒は殆どいないし、仕事もない。小松田さんもどっか行っちゃったし、先生方は休みなのに忙しそうだ(土井先生弄りたかった)。
うーん、誰か暇そうな人いないかな。

「私がいるけど?」
「………突然来るのは慣れたんですけど、心を読むのは止めて頂けませんか」
「それは残念」
「…利吉さんいらっしゃい」

今日も突然現れた利吉さん。休日なのに遊び相手がいなかったので珍しく歓迎してみると、一瞬だけ利吉さんの動きが止まった。あれ、いつもと違い過ぎて引いたか?まあそんなことはどうでもいい。
もう相手をしてくれるなら誰でもいいくらい暇だったので、利吉さんの手を引いて事務室までやってきた。利吉さんはやっぱり驚いていたけど、私だって驚いている。なんで自ら利吉さんをもてなしているんだろう。

「…お茶淹れますね」
「ああ…じゃあこれ、お土産だよ」
「お菓子…!」

利吉さんが持ってきてくれたのは、有名店の高級菓子だった。いや、食べてみたかったんだけど、高くて手が出なかったんだよ。美味しいって評判だし、何より見た目が可愛い。
ご機嫌でお茶を淹れていると、後ろにいた利吉さんが小さく笑った。…絶対今、子供みたいって思ったな。高級菓子貰ったら誰でもテンションあがるもん。男の人は知らないけどさぁ…。

「そういえば、さっき手裏剣教えてあげてたよね」
「げっ、見てたんですか…」
「げって何?」
「覗き見なんて相変わらず悪趣味です」
「声を掛けるタイミングを窺っていただけだよ」

爽やかな笑顔に流されてしまうのはいつものことだ。気にしないようにしよう。
お菓子を食べながら利吉さんとお茶を飲んでいると、どこからともなく悲鳴のようなものが聞こえてきた。ああ、小松田さん帰ってきたんだ(そして何かやらかしたな)。いつもなら助けに行くんだけど、今日は敢えてスルーで。お茶の時間邪魔されるのは嫌なんだよねぇ。気にせずお茶を啜っていると、利吉さんが私の顔をまじまじと見ていることに気が付いた。…そんなに見られると食べにくいんだけどな。

「名前ちゃんは、」
「はい?」
「もう一度くの一をする気はないのかい?」
「………ない、です」

急に真面目な顔をしたので何かと思えばそんな話か。暫く利吉さんから仕事の話は出なかったし、気を遣ってくれてるのかと思っていた。まあ、それも潮時なんだろうけど。
私は少し前までくの一として働いていたのだが、両親が他界したことを期に仕事を受けなくなった。利吉さんと初めて出会ったのも、仕事を通じてなのだ。そういえば、最初は実力もあってかっこいい利吉さんが嫌いで仕方なかったなぁ…。

「私死ぬのが怖くなったので、もう出来ないと思います」
「そっか。まあ私としてはその方が安心かな」
「は?」
「また一緒に仕事したいとも思うけど、心配でそんなことさせられないからね」
「…そうですか」

阿呆か私。なんでこんな言葉に照れてるんだろう。ただ心配してくれてるだけだし、一緒に仕事したいっていうのも息が合うからで…。…そういえば前は息ぴったりだったな。私の中で利吉さんはすっかり憧れの存在になっていたし、利吉さんもパートナーとして好いてくれてるものだろうと思っていた。
というか、この人はいつから私のこと好きだったんだろうか。

「利吉さん、いつから私のこと好きなんですか?」
「……えっ、?」
「…かなり動揺しましたね。言いたくないならいいです」
「いや、そういうわけじゃないよ。…たぶん、出会った時から好きだし」

今度は此方が硬直する番だった。出会った時って、私ただのガキんちょだった気がするんだけど(相当可愛くなかったし)。
私が硬直しているのを見て少し照れたような顔をした利吉さんに、私も思いっ切り照れてしまった。こんな恥ずかしくなるなら聞くんじゃなかった。暫く恥ずかしくて利吉さんの顔見れない。


一途過ぎて馬鹿みたい
(一体何年間片想いしてるんだ…)



120420
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