小松田さんに利吉さんが来てるよなんて言われたら、もう仕事どころじゃない。こんなところ(事務室)にいたらすぐに見付かってしまうじゃないか!
残っていた仕事を抱えて素早く自室へ戻ってきた。利吉さんが帰ってくれるまで、仕事はここでしよう。あれから忍術学園には姿を見せないものの、利吉さんは毎日欠かさずに文をくれるようになった。今どうしているかとか、早く会いに行きたいとか…なんでこんなに積極的なの。元々押しに弱い方なので、利吉さんのペースに巻き込まれてしまうことは目に見えている。

「流されたらどうしよう…」
「流されてくれればいいじゃないか」
「………。」
「やあ」
「やあ、じゃないいいい!!」

噂をすればなんとやら。いきなり後ろに現れた利吉さんに本を投げつけるも、あっけなく受け止められてしまった。悔しくて睨んでみたが、利吉さんは余裕の笑みを返してくる。
というか、いつもだったら侵入される前に気付くはずなのに、なんで今回は気付かなかったんだろう…。

「利吉さん何しに来たんですか!」
「名前ちゃんに愛を告げるために来たよ。父上に届け物もあったし」
「ついでみたいに言わない!」
「ついでだよ。名前ちゃんに会いたくて来たわけだからね」

不意打ちで人をときめかせるなんてどこの天然だよ…!もう嫌だ遊び人とかプレイボーイとか滅びればいいのに(時代が時代だから半数が滅亡するよ!)。
とにかく利吉さんを追いだそう必死に努力してみるも、またしても笑顔で流されてしまった。…なんで、お茶淹れる破目になったんだっけ。それすらも忘れちゃったよ!イケメンって恐ろしい!
…一旦落ち着こう。このまま利吉さんのペースに乗せられたらいろいろやり難くなる!淹れたてのお茶を啜って和んでいると、利吉さんから箱を差し出された。中には綺麗な色の髪留めが。…なんなのこの人。

「受け取れませんから!」
「病気と不運以外貰ってくれるんだよね?」
「私利吉さんの気持ちには応えられないんです!この前の簪だって…!」
「大丈夫。そして返品は受け付けないよ」

何が大丈夫なの!?利吉さんの頭が大丈夫ですか!?そして、その後はこの前より更に恥ずかしい告白をされた。恥かしそうにしてた利吉さんはどこへ行ったんだ。今のがすっと質悪いよ。
いつも通り終始笑顔だった利吉さんは、上機嫌で去って行った。丁重に断ったはずなのになんだこの敗北感は…(なんかムカつく)。
このイライラを誰にぶつければいいの!伊作…は、この間やりたい放題にしたし(あれは悪いことしたな)。小松田さんは泣かれると面倒だ。他には…。


―――


「…で、私のところか」
「正確には山田先生に文句を言いに来ました。まさか校外実習でいらっしゃらないなんて…!」
「帰ってくれ」
「そんなこと言わずに愚痴を聞いてくださいよ!私は実戦でもいいんですよ!?」
「よし、聞こう」

流石土井先生、話がわかりますな。見事言い包めることに成功した土井先生に利吉さんとのことを洗いざらい話してみた。話した、というよりも一方的な愚痴に近い。それでも土井先生は頷きながら聞いてくれた。そういう優しいところは尊敬します(練り物は食べればいいと思うけど)。
全部吐き出してすっきりしていると、少し控えめな土井先生の声が耳に入った。

「でも…嫌いじゃないんだろう?」
「忍者している時の彼はむしろ尊敬に値しますよ」
「何が駄目なんだ」
「顔。」

そう言い放つと土井先生は口を開けてぽかんとしている。いや、たまにとぼけた顔するなぁとは思っていたけど、こんな近くで見ることになるとは(ちなみに小松田さんやタカ丸もとぼけた顔してる)。

「…顔?利吉くんってあれでモテるぞ?」
「モテるのも顔が良いのも知ってますよ」
「じゃあなんで顔が嫌なんだ」
「モテる人と恋仲だと大変じゃないですか、嫉妬で忙しそう」
「はぁ…」

土井先生が呆れているが気付かなかったことにしようそうしよう。とある友人の恋人がめちゃくちゃ男前で、その子は嫉妬で忙しかったらしい。結局別れてしまって、今はお見合い相手と幸せに暮らしている。いくらかっこいいからっ、それに釣られて付き合っちゃいけないのだ。

「…その理由じゃ諦めないだろうな」
「なんですと!?」
「かっこいいなんて言ったら喜ぶだろ、普通」

確かにそうだろうけど、だからといって付き合えるわけじゃないんだってば!話聞いてなかったのか土井先生!
勢いよく突っ込むと、「さっきから利吉くんのこと好きって言ってるようにしか聞こえないんだよ!」なんて叫ばれた。あなたの耳は節穴ですか!さっきから迷惑してるって言ってるんですよ!
ぎゃあぎゃあ騒いでいると、偶々通りかかった野村先生に二人して鉄拳を食らった。いや、なんか申し訳ない。


そんなこと知らない
(利吉くんがモテるから嫉妬してるだけじゃないか)(ない。絶対にない!)(どっちでもいいけど怒られた罪滅ぼしに採点付き合ってくれ)(あああああ!!)



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