本来なら小松田さんがする分の掃除を、なんで私がやらなくちゃいけないのだろうか。それもこれも、あのへっぽこのせいである。頼むからしっかりしてくれないかな、切実に。しかしあの顔を見ると放っておけなくなるから質が悪い。どうして頼まれると断れないんだろう(絶対私のせいじゃないんだけど)。
ため息を吐きながら掃除を続行していると、後ろに誰かの気配が一つ。明らかにここの人間ではないが、一体どこから入ったんだろう。サイン貰わないと小松田さんに怒られるし、一応貰っとくか。

「すみませーん、入門表にサイン頂いてもいいですかー?」

気配のする方に向かって呼びかけるが、一向に姿を現してくれない。まさか曲者?いやいや、曲者がわざわざ事務員のいるところをうろつくはずもない。
曲者じゃないだけいいか。段々面倒になってきたので掃除を再開すると、さっきまで草むらにあった気配が今度は後ろへ移動した。一体何がしたいんだこの人は(やっぱり曲者なのか)。反射神経で持っていた箒を振ると、それは簡単に受け止められてしまった。…というか、この人曲者じゃなかったんだ。

「利吉さん、脅かさないでください…」
「私の方こそ驚いたよ。まさか箒で攻撃してくるなんて」
「曲者かと思いました」
「どうやら腕は鈍ってないみたいだね」

爽やかに笑い飛ばす利吉さんを殴りたくなった。顔が良くなきゃ確実に殴ってたよ、危ない危ない。
どこから入ったのかは敢えて聞かずに、サインだけ貰っておいた。もっと普通に来てくれないのかな(無理なんだろうけど)。

「山田先生なら補習に行ってますよ」
「父上に用はないよ」
「暇を持て余しているんですか?」
「はは、名前ちゃんに会いに来たんだ」
「………はい?」

山田先生に用がないのに私にはあるとは一体何事だろうか。今日は四月一日でもないし、どうも冗談を言っているわけではないらしい。疑いの眼差しを向けると苦笑いをされてしまったが、それくらい信じられないのだ。
まぁ、とりあえずお茶でも淹れて差し上げよう。誰もいない食堂で利吉さんと二人。ここに来る途中、話があると言っていたが、そんなに深刻な話なのだろうか。一向に切り出そうとしないのでこの状況に飽きていると、それを見て大きくため息を吐かれた。なんか失礼だなこの人。

「ふあぁ…、すみません、昨日徹夜だったもので」
「それなら仕方ないよ」
「それで、話って何なんですか?」

深刻な話なら別にそれでも構わないし、違うのならもったいぶらないで早く言ってほしい。早く早くと急かすと、利吉さんは覚悟を決めたように深呼吸をした。うわぁ、なんか私まで緊張…。

「単刀直入に言うけど、」
「はい」
「…名前ちゃんのことが好きなんだ」
「………はい?」

あ、これ今日二回目だ。…そんなことより今利吉さんが言葉を思い出す方が先だ。好き?誰が、誰を、どうして。何かの間違いだろうそうだろう。誰かドッキリだと言ってくれ。
しかし半信半疑で利吉さんを見ると、その表情はいつもと少し違うように見えた。ほんのり顔が赤いし、どこか落ち着かない様子。なんでだどうしてだ。私ってそんなに日頃の行いが悪いのだろうか。確かにお世辞にも良いとはいえないが(中略)。
とにかく、だ。利吉さんのことは嫌いじゃない。むしろ尊敬しているし、かっこいいとも思っている。でも、恋仲になれるのかと聞かれたら、答えはいいえだ。

「縁がなかったと思ってください」
「私の何が駄目なのか聞いてもいいかい?」
「忍者としては尊敬していますが、恋仲になるのは厳しいかと」
「…厳しいということは、可能性はないわけじゃないんだよね」
「は?」

どこをどう取ったらそういうふうになるのか、是非教えていただきたいものだ。なんてこと言っちゃったんだ私、誰か時間戻してくれ。利吉さんとお付き合いなんて無理だよ絶対に合わないよ!
結局勘違いしたまま利吉さんは忍術学園を去ってしまった。無理、絶対に無理何がなんでも無理!なんでこうなるのよどっかから不運持ってきたのか私!


ごめんなさい、好みじゃないんです
(伊作くたばれぇぇぇい!!)(ちょ、名前さん!?なんでえええ!?)(黙らっしゃいこの不運!)(名前さんまじで伊作死ぬぞ)



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