「利吉さーん」

仕事を小松田さんに任せて町に出てくると、山田先生の息子さんを発見した。軽く手を振ると、利吉さんも嬉しそうに振り返してくれた(良い人…!)。
しかし、本当に珍しいところで見付けてしまったものだ。ここは女物を多く取り扱う小物屋さん。私もよく利用するが、男性は殆ど見たことがない。恋人への贈り物だろうか?それともお母上にとか?

「名前ちゃん、調度いいところに」
「なんですか?」
「簪だったらどっちがいいかな?」

利吉さんが指差した物を見ると、全く色の異なる二種類の簪。片方は淡い青に椿の柄、そしてもう片方は橙色に桜の花模様。正直どちらもすごく可愛い。利吉さんってば、小物を選ぶセンスあるなぁ。
最初は真剣にえらんでいたのだが、ここである疑問が浮上した。相手が恋人でもお母上であっても女の人。利吉さんが渡すのだから、本人が選んだ方がいいに決まっているじゃないか。
利吉さんに駄目出ししてやんわり断ると、渋々了承してくれた。利吉さんって意外と阿呆なのかな?

「…名前ちゃんも相手に選んでもらった方が嬉しいかい?」
「え?うーん、私はあんまり贈り物とか貰わないので」
「恋人は?」
「…いたら休みの日に一人で外出しませんよ!利吉さん空気呼んでください!」
「ごめんごめん」

笑いながら謝られても説得力に欠けます。その後も何故か利吉さんの贈り物選びに付き合わされて、気付くと予定の時間をとっくに過ぎていた。外出届の帰宅時間は空欄にしておいたけど、帰ったら小松田さん煩いだろうなぁ。黙ってれば可愛いのに、めんどくさい。
時間が過ぎていくのを気にし始めていると、勘定を済ませた利吉さんが戻ってきた。というか、ほんとなんで付き合っちゃったんだろう…(私今日何しに来たんだっけ?)。

「お買い物は終わりましたか?」
「悪いかったね、付き合わせちゃって」
「利吉さんって意外と優柔不断ですね…」
「今日だけだよ」

苦笑いした利吉さんの手には簪の箱があった。色んなお店を回ったものの、結局最初にいたところで買い物をしたようだ。二種類で迷ってたけどどっちを買ったんだろうな…。
「遅くなったから送って行くよ」と手を取られた。手を繋ぐ必要ってあるのだろうか(一本道だから迷子にはならないよ)。他愛もない話をしながら歩いていると、通りかかる人たちに冷やかされてしまった。いや、私は別にいいだろうけど利吉さんは恋人いるから(多分)。

「なんかすいません」
「どうして?」
「一緒にいるとはいえこんなちんちくりんと恋仲、なんて…!」
「ちんちくりんって…そんなことないよ」
「うわ、利吉さん優しー…」

忍術学園の生徒たちなんか私のこと女だとも思ってないから(六年生たちなんか年上だとも思ってないよ)。
上機嫌で歩いているとあっという間に学園の前に着いてしまった。何はともあれ利吉さんと話せたし、今日は付き合ってよかったな。利吉さんっば買い物長いけど。
お礼を言って中に入ろうとすると、利吉さんに引き止められて小さな箱を渡された。これって、さっきのお店の簪…?

「貰ってくれるかな」
「…私が貰っていいんですか?」
「そのために買ったからね。嫌なら処分してくれて構わないよ」
「まさか。貰えるものは病気と不運以外貰う主義ですから」

利吉さんは「素直だね」なんて言って帰ってしまった。山田先生に会って行かれなくていいのかな?まあ大した用事がないのだろう。
小松田さんにこっ酷く怒られてから部屋に戻って、利吉さんに貰った箱を開けてみた。中にはお昼に見た二種類の簪。結局、どっちも買っちゃったんだ…。というか、恋人にあげなくていいのかな。


細かいことは気にしない主義
(高そう…というか、高いんだろうな)



120408
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