「名前さん、おめでとうございます!」

この言葉を、今日の間に何度聞いたことだろうか。
いつも通り学園内で仕事をこなしていたのだが、どこへ行っても皆からこの台詞を言われるのだ。何がおめでたいかというと、何故か皆、私と利吉さんが恋仲になったと思っているらしい。いやいやいやいや。ちょっと待ってくれ。確かに利吉さんは私が好きだと言ったし、私も利吉さんが好きだけど。けれども、恋仲になる、なんて話は一度もしていない。
どうしてこんな噂が出回っているのだろうか。…無論、答えは一つである。

「利吉さん!勝手に言いふらさないでください!」
「せっかくだし自慢したいじゃないか」
「意味がわかりません」

相変わらず会話が成立しない。何を言っても前向きに取られてしまうのは前々から気付いていたが、まさかこんな大事になるとは。わざとらしくため息を吐いてみたのだが、この人には通用しないらしい。本当に耳付いてるのか。

「恋仲じゃないって何回言ったらわかるんですか!」
「…口付けまでしておいて?」
「利吉さんが無理矢理したんでしょ!?」

思わず感情的になってしまったが、この場合仕方がないだろう。怒った顔より笑った方が可愛いよ、なんて言われたのを思い出し、またそんな口説き文句で誤魔化されるなだろうと予想していた。しかし利吉さんは何故かぽかんとした顔をして、未だ私を見つめている。
一体何事だ。いつもは見ることのない利吉さんの阿呆顔をまじまじと見つめ返していると、腕を引かれ抱き寄せられた。

「利吉さん…!?」
「もっと怒ってよ」

…はい?何を言われるかと身構えていたのに、もっと怒れとは一体どういうことだろうか。
驚いて利吉さんの腕の中で固まっていると、抵抗しなくなったと勘違いしたのか、利吉さんが顔を近付けてくるのがわかった。この前みたいにいくか。利吉さんの口を手で覆って押し返した。危ない危ない。
利吉さんは大変不満そうに頬をを膨らませていた。そんな顔したって…可愛い、とか思ってませんから…!そんな彼を睨みつけて、ふとさっきの怒って発言が嫌という程気になった。

「…利吉さん私に怒られたいんですか?」
「名前ちゃんが怒った時の口調、懐かしいなあと思って」
「懐、かしい…」
「反抗期の時みたいでさ」

反抗期とは人聞きの悪い。確かに口は悪かったし態度も相当可愛くなかった。でもそれは反抗期ではなく、実際には私が利吉さんに勝手に劣等感を感じていただけ。この人もそれはお見通しのはずだ(反抗期程度の認識しかなかったのかもしれないが)。
そういえば利吉さんは、出会った頃から私のことを好いていたと言った。しかし私は利吉さんのことを拒絶するばかりで、幾度となく、その…利吉さんを傷付けたと思う。暫くしてからはそこそこ懐いていたが、告白されてからはまた逆戻りだ。
自分の不甲斐なさに頭を抱えていると、利吉さんは人の気も知らず笑顔を見せた。ああもう、なんなんだこの人は。

「利吉さん」
「なんだい?」
「好き」

何食わぬ顔でそう言うと、さっきまで笑顔だった利吉さんが固まった。不意を突いたのが嬉しくて笑ってみせると顔赤くしてしまって、なんだかいつもと立場が逆転したみたいだ。

「…名前、」
「はい?」
「結婚しよう」
「…どうしてそうなったんですか」

今、ちょっといい雰囲気だったのに。利吉さんってば変なとこで空気読めないんだから…。まあ、そこが彼の魅力でもあるのだろう(本人には言わないが)。
結婚なんてそう簡単にするものじゃないけど、取り敢えず近いうちに利吉さんが私の親戚の家を訪ねようと言ってくれた。というか、結婚することは決定事項なんだ…私返事してないんだけど。しかし、いつになくはしゃいでいる利吉さんを見ると、どうも切り出しにくい。
…まぁいいか。先程好きと言ったわけだし、今でなくてもいつかはこうなるのだろう。相変わらず話が飛躍し過ぎている彼に呆れつつも、今夜は久しぶりに親戚宛の文を書こうと決めた。


ずいぶんと遠回りでしたね
(利吉さん)(うん?)(幸せにしてくださいね)(…もちろんだよ)

―――

糖分過剰摂取した…。甘い、甘いですね。序盤とは比べものにならないくらい。始まってから早4ヶ月。ようやく完結まで持ち込めました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。



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