町に出てきてみたものの、用事もなければ買いたい物もない。一体何をしに来たんだと自分自身に問ったところで、明確な答えが見つかるわけもなかった。
本当に、どうしたらいいのだろうか。小物を見ても欲しい物なんて見つからなかった。…あれだけ利吉さんに貰ったんだ、当然といえば当然だろう。結局外に出ても利吉さんのことを考えてしまうわけで、何をしようと無駄なようだ。
もう帰ろう。そう思い店から出ると、見慣れた後姿が一つ。

「りっ…!?」

彼の名前を呼びそうになった口を必死に抑えた。何故声を止めたのかはわからなかったけど、今は会わない方がいいということはわかった。今日は人も多いし、周りに紛れ込んで移動してしまえば気付かれないだろう。
気配を消して人混みを抜ける。なんというか、今日はこれだけだったのにどっと疲れた気がする(これなら小松田さんのフォローの方がマシだ)。

「はぁ…」
「疲れたなら学園まで運んであげようか?」
「………。」
「やあ」
「…死ねばいい。」
「どういうことだいそれ!?」

もう嫌だこの人。まあ、よく考えてみたら私に利吉さんを出し抜くことなんて出来るはずもない。無謀過ぎただろうか。利吉さんに非がないことを頭で理解しつつも、どこか腑に落ちないのだ。にこにこ顔の利吉さんが。私に話し掛けてくれた利吉さんが。

「…何かご用ですか」
「酷いなぁ、久しぶりに会えたのに」
「別に会えなくてもよかったです」

「そんなこと言わないで」と言う利吉さんを無視して歩き出したが、彼は私の隣を何の許可もなしに歩いていた。どういうこっちゃ。
不機嫌丸出しな顔で睨みつけるが、笑顔を絶やさない利吉さんには効果なしだ。歩いているだけでかっこいいとかなんてこった。

「…名前ちゃん今日冷たくないかい?」
「いつも通りです」
「いつもは罵倒の中に愛があるよ」
「勘違いなので還ってください」
「ちょ、変換違くない!?土に還れってこと!?」

駄目だ、今日の利吉さん頭おかし過ぎて言葉通じない。そしてその利吉さんと同じくらい私の頭もおかしい。いつも阿呆らしく聞こえる利吉さんの(本人が言うには)愛の言葉を素直に嬉しく感じてしまっているのだ。なんでよりによってこんな人なんだろう。そう思い利吉さんの顔を見つめると、思いの外にこにこされてしまった。おかしい。かっこよ過ぎておかしい。こんな素敵なお顔なのに私のこと好きとか馬鹿なのかしらこの人。
利吉さんから目を逸らしてため息を吐く。きょとした顔をされたが、その行動にすらときめかされた。ああ、やっちまったよ…。

「名前ちゃん顔赤くない?」
「…馬鹿」
「私の心配に対する答えが馬鹿ってどういうことなの」

まさかとは思うけど、この人自分の気持ち以外に対しては鈍感なの?うわぁ、めんどくさいな。そうだろうとは思ってたけど。
それでもこの人に落とされてしまったという事実は変わらなくて、若干落ち込んだ。会えて嬉しい、話せて嬉しい。そう言えない私の口は可愛くないけど、お願いだから嫌いにならないで。らしくもないことを考えてしまった午後だった。


まだ間に合いますか?
(もう少し好きでいてください)



120525
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