最近の私はどこかおかしいようだ。原因は多分、というか絶対利吉さんにある。あんなに頻繁に来ていたのに、最近はめっきり姿を見せなくなったのだ。
…あれだけ煙たがっていたのに、いざ来なくなると寂しいなんて思ってしまう。仕事で何かあったのだろうか。それとも、もう私に飽きたかな。そもそも曖昧な私が悪い。しつこい利吉さんも悪いけど、私にも少しくらい非はある…と思う。
このまま来てくれなくなったらどうしよう。来てくれたとしても、無視されちゃうんじゃないんだろうか。

「名前ちゃん?」
「小松田さん…」
「ずっと門の方見てるけど、もしかして誰か待ってるの?」

小松田さんの問いかけに思わず動きを止めると「図星だー!」なんてからかわれた。別に待ってるわけではない…と、思う。来なくても困らないし、寧ろ来ない方が仕事出来るし…。なんだかもやもやしたもので支配されているが、気付かなかったことにしておこう。私の思い過ごしだ。
吉野先生も小松田さんもいない事務室で一人、書類の整理を終わらせて佇んでいた。ここでよく利吉さんの邪魔が入っていたのに、今日はそれがない。まだ最後に会ってから十日も経っていないのに、なんでこんなに利吉さんのことばかり考えなくちゃいけないんだ。

「なんか間違ってるよなー…」
「何が間違ってるんだ?」
「…吃驚した」

今日は利吉さんではなく、土井先生に背後を取られてしまった。別に先生は気配を消したわけじゃないだろうけど(ぼーっとしちゃって普通に気付かなかったよ)。
そんな私に少々呆れ気味の土井先生に要件を問うと、小松田くんから貰うはずの書類がまだ届いていないらしい。仕方なく事務室中を物色していると、ずっと黙っていた先生が突然口を開いた。

「利吉くんとはどうなんだ?」
「どうなんだって…別に何もないんですよ」
「何も?」
「しつこいです」

「二回聞いただけじゃないか」ぼそっとそんな呟きが聞こえたが、そんなものは無視だ。というか、親しいわけでも恋仲なわけでもないんだから、さっきの聞き方はおかしいだろう(絶対わかってて聞いたな)。
机の隅に忘れ去られていた書類を発掘し、土井先生に向かって投げつけた。先生が悪いわけであって、私は悪くない。

「利吉くんが来ないからって仕事の手は抜かないでくれ」
「抜いてないです」
「…ならいいが」

静かになった事務室で、土井先生に言われたことが頭の中を廻った。確かに最近はミスが多かった気がするけど、それが利吉さんのせい…?まあ実際、利吉さんを気にし過ぎて集中出来ていないのだけど…。
…というか、それじゃまるで利吉さんに恋い焦がれているみたいじゃないか。なんて不愉快な…いや、不愉快通り越して意味がわからん!利吉さんと仕事は関係ないし、私が利吉さんのこと気にしてるわけないじゃないか!

「…ムキになってどうするの私。」

始めた時より大分片付いた書類を眺め、ため息を吐いて机の前から立ち上がる。もう今日は仕事をしても捗らない。少し町をふらふらして、帰ってきたら徹夜しよう。


会いたい、なんて
(言ってない、思ってない!)



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