どたばたしてしまったものの、立花くんに桜色の着物を選んでもらい、更には化粧までやってもらった。普段すっぴんなせいで普通の女の子たちより大分疎かったのを見かねた立花くんが助けてくれたのだ。綺麗なお化粧、ちゃんと覚えられるかな…。
恋をするとやらなければいけないことが増える。重荷にはならないし面倒だとも思わないけど、大変なことは確かだ。やっぱり立花くんに教えてもらおうかな。…男の子に聞くのってなんだか悔しいけど。
心の中で葛藤を繰り広げながら待ち合わせ場所へ行くと、既に善法寺くんが待っていた。もう少し早く来るべきだったかな…。

「あ、おはよう名前ちゃん!」
「お、おはよう!ごめん、待たせちゃったよね…」
「やだなぁ、気にしないでよ。名前ちゃんを待たせるくらいなら、僕が待ってた方がいいし」

にこっと笑った善法寺くんを見たら、急に不安が飛んでいってしまった。どうしてこんなに優しいんだろう。相変わらず素敵だなぁ。
今日の約束をして以来会っていなかった善法寺くんに見とれていると、後ろから小松田さんに声を掛けられた。「二人でデートかな?」なんて聞かれて焦ったから不自然な否定の仕方になっちゃったけど、誤解されてないといいな(私は構わないんだけど善法寺くんがね…)。

「小松田さん、変な誤解してないといいんだけど…」
「…そうだね」
「善法寺くん…?」
「ああ、行こうか」

先程のように笑ったかと思ったら、不意に私の手と善法寺くんの手が絡まった。…絡まったというより、繋がったと言うのが正しいのだろうか。しかし言葉通り指同士が絡まるような繋ぎ方をしているわけでどっちでも……というか、そんな分析をしている場合ではない。動悸が激しいし、きっと顔も真っ赤になっているだろう。善法寺くんの行動はよくわからないけど、嬉しいような、恥ずかしいような…!

「あの…善法寺くん」
「なあに?」
「その、どうして手繋いでるの?」
「…繋ぎたかったから、かな?」
「え?」

そんな疑問系で返されても…!しかも繋ぎたかったからって、どうして?なんで手を繋ぎたいとか思うの?仮に思ったとしてもどうして何の躊躇いもなく繋げるの?
ちょっとした混乱状態に陥っていると、善法寺くんがなんだか困った顔をした。困ってるのはこっちだと思う!善法寺くん可愛いけど!結局手はそのままで町中を歩いてしまった。ううっ…誰かに見られてたらどうしよう…!
甘味処に着いてからやっと離れたのはいいんだけど、なんだか恥ずかしくて善法寺くんの顔が見られない。正面に座らなきゃよかったかな…?

「名前ちゃんさ、仙蔵とすごく仲良いよね」
「そう、かな?たまにからかわれるのは嫌だけど…」
「食堂でいつも一緒だし…」
「あ、それは立花くんに…」
「仙蔵に?」
「…なんでもない」

危うく立花くんに相談してること言いそうになっちゃったよ。危ない危ない。善法寺くんは「教えてよー」って聞き出そうとしてるけど、そんな告白紛いなこと言えるわけないから(なんか隠し事してるみたいだな…)。
甘味処を出る前に美味しかったお団子をお土産に包んでもらった。これは割引にならないんだけど、まあいいか。

「それお土産?」
「うん。留三郎に」

結構前に買って行った時は喜んでくれたし、同じのでもいいよね。包みを掲げながら笑ってみせると、善法寺くんはちょっとだけ哀しそうな顔をしていた。もしかして私がお団子を買っている間に何かあったのだろうか。優しい善法寺くんのことだから、きっと些細なことでも落ち込んでしまうんだろうな…。
少しでも元気付けようとしたのだが、励ましの言葉が見当たらない。結局いいこと一つ言えずに、日が沈み始めてしまった。前半はよかったんだけどなぁ…。
帰り道の会話はあまり無かったが、行きと同様に善法寺くんが手を繋いでくれた。繋いでいるのと反対側の手は激しく震えているのがわかる(緊張し過ぎて)。状況が状況なだけに何も言えず、掌から鼓動が伝わらないことを願うだけだった。これ、完全に寿命縮んじゃうよ…。


手足の震え
(緊張してうまく動かない、けど)



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