「あ、名前」

カフェのテラス席にてパソコンとにらめっこしていると、特徴的なもさもさ頭の人物が立っていた。うわー、めんどくさいのに会っちゃったな。そもそも忙しくて相手にしている暇もないので華麗に無視を決め込んでみた(あわよくばどっか行け)。
しかし彼は私の行動が気に入らなかったようで、パソコンの画面を手で覆い隠し邪魔してきた。忙しいのが見てわからないのかこの人は。仕方なくパソコンから目を逸らせば、満足そうに笑みを浮かべた。やっぱりめんどくさいな。

「…すいません、気付きませんでした」
「いや明らかに無視しただろ!目ぇ合ったし!」
「気のせいだろ」

態度が悪いからかタメ口が気に入らなかったからかはわからないが、いつものように頭を叩かれた。そんな暴力的だからモテないんだよ(そうじゃなくてもモテないだろうけど)。
その後何故か目の前に座ってきた彼にイラッとしながらも順調にキーを打っていく。何なんだろう、実は人の仕事を邪魔するのが趣味?…なんて質の悪い。

「…私あなたみたいに暇じゃないんだけど」
「俺が暇人みたいな言い方やめろよ」
「え?違うの?」
「お前な!」

パソコンに目を向けたまま謝ると、本日二度目の制裁を食らった。痛いわ阿呆。新妻くんの担当編集じゃなかったら今すぐ殴り返してるんだから。
「じゃあなんで座ったんですか?」そう聞けば「福田くんのとこ行くまで時間あるから」と言われた。もっとこの時間を有効活用すればいいのに(やっぱり馬鹿なんだろうか)。そういえば私も福田くんに用事あったんだ。仕事場まで出向くの面倒だからこの人に頼んじゃお。

「これ、福田くんに渡してください」
「何これ?」
「ラブレター的な」
「嘘!?」
「嘘だよ」

思わず吹き出して笑っていると、今度はマジで怒られた。「歳上をからかうな!」とか雄二郎さんに言われても説得力に欠けるわ(そういえば歳上だったっけ)。いつも福田くんと一緒になってからかってるから、どうも歳上には…ねぇ。福田くんからしたら私のことも歳上だと思ってないんだろうけど。

「一人で福田くんのところ行ったりするなよな」
「なんで?」
「なんでって…あっちは意識してるだろ」
「ふーん…私そういうのよくわかんないし、まどろっこしいの嫌い。はっきり言ってくれたらいいのに」

これだからヘタレは。まあそんなこと言えた口じゃないんだけどね、無駄口だと思って聞き流してくれればいい。
でも、福田くんかぁ…顔は悪くないし、性格なんか誰よりも男前。趣味は合わないけど話は合わせてくれるし、全く非の打ち所がない。…ちょっと変態臭そうとか思ったのは気付かなかったことにしておこう(趣味と思考は人それぞれです)。
そんな想像(妄想)をしていると、何故か雄二郎さんがつまらなそうな顔をしてきた。つまらないなら帰れ。というか福田くんのとこ行け。仕事…といっても今日の分じゃないし締め切りもまだまだ先なんだけど、とにかくこれ終わらせたいし。

「名前」
「はい?」
「まどろっこしいの嫌いなんだろ?」
「うん、嫌い」
「好きだ」
「………は?」

真顔で口を開けていると、照れ隠しに頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。ちょっとときめいたのに、なんで顔赤くするのよ。ほんと残念な人だな。…そこがいいのかもしれないけど。
なんだかんだ言っても、私はこの人が嫌いではないらしい。そりゃ、福田くんの方が見た目も好みだけど…。うーん…なんだろう。

「んー…とりあえずレンタルで」
「DVDじゃないんだから」
「あら、私は借りなくてもいいんだけど」
「…わかったよ」

やっぱり扱い易いなこの人。


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