雄二郎さんは阿呆だと思う。どこがって聞かれるとよくわからないけど、なんか…ぽかーんって感じがする。どこか抜けてるような気がするし、空気読めない上に馬鹿にされやすい。ちなみに私は馬鹿にしているわけではない。ちょっと遠回しに褒めているだけである。
そんな雄二郎さんと付き合って半年くらいになる。彼が担当している作家さんの家がご近所…というか、同じマンションの同じ階にあった。新妻さんは毎日騒音がすごくて、担当である雄二郎さんが謝りにきたのがきっかけだった。
それからはもう、押しに押されて負けてしまって。だって雄二郎さんってば新妻さんの家に来る度にうち来るんだもん(最初はついでかと思ったよ)。そんなこんなで恐る恐る付き合い始めたけど、今は結構楽しいものだ。雄二郎さん優しいし面白いし。阿呆だけど。

「雄二郎さん」
「んー?」
「今日新妻さんからリンゴ貰っちゃいました!」
「……は?」

呆気に取られている雄二郎さんに貰ったリンゴを見せると、更にぽかんとした顔をされた。お昼頃急に誰かが訪ねてきたから雄二郎さんかと思って開けたら、スエット姿の男の子が立っていたのだ。「雄二郎さんの彼女さんですね!初めましてです!」なんて言って、実家から送ってきたというリンゴをお裾分けしてくれた。というか、なんで私が雄二郎さんの彼女だって知ってるんだろ(もしかして私有名人?)。

「今日来たのって新妻くんだけ?」
「そうですけど」
「…明日から福田くんとか来たらどうしよう」
「お返しに何か持ってった方がいいですかね?」
「いらない」

雄二郎さんに聞いてもしょうがないんだけどね。まあいらないって言われても持っていくけど。既に頭の中は何を作ろうかという想像でいっぱいだ。
リンゴを見ながら考えていると、不意に雄二郎さんの腕が首に巻き付いてきた。苦しくはないけど、なんだか変な感じだ(恥ずかしいし)。

「なんですか」
「ご近所付き合いとか言って、新妻くんに会うなよ?」
「…雄二郎さんヤキモチですか!?」
「なんでそんなにテンション高いんだ…」

なんでって、ヤキモチ妬いてもらえると愛されてる感があるじゃない。阿呆だってなんだって雄二郎さんとは年齢差がある。越えられない壁というか、越えにくい壁というか。という感じで正直壁を作っているけど、そうやって妬いてもらえると安心する。ほら、雄二郎さんと同じくらいの歳の女の人って、大人っぽくて綺麗な人が多いし。
そんな長々とした説明を聞いた後、雄二郎さん顔を真っ赤にして私を抱き締めてきた。意味がわからなかったけど、とりあえず抱き締め返してみる。しかし反応はない。

「変な雄二郎さん…」
「…いや、そんなに想われてるとは思わなくて」
「はい?」
「告白俺からだし、半ば無理矢理付き合い始めたし…」

半ば無理矢理付き合い始めたっていう自覚はあったんかい(無自覚かと思ったから触れないでおいたのに)。雄二郎さんって阿呆だけど鈍感ではないからね…紙一重だけど。
というか、好きじゃなかったらとっくに別れてるわよ。それどころか部屋に上げたりもしないし、電話もメールもしないわ。そういうところだけ鈍感だと、この先苦労するなこの人。

「ちゃんと好きですよ。少なくとも雄二郎さんが思ってるよりは」
「…よかった」
「浮気されたら別れますけどね」
「えぇ!?いや、しないけど…!」
「ならいいじゃないですか」

困惑気味の雄二郎さんにキスすると、またしても顔を真っ赤にされてしまった。いつも自分からしてるくせに、どうして私からされると照れるんだろう。
笑いながらからかったら、仕返しと言わんばかりに押し倒された。あ、フローリング固いな。雄二郎さんよりもフローリングを気にしていると、それが気に入らなかったのか抱き上げられて、今度はソファーに下ろされた。阿呆か、こっちだって固いっての。


愛してるなんて、
(言わないって思っていました。)



120328
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -