※バレンタインの続き


「…名前、」
「え、のーさんきゅーです」
「まだ何も言ってない!」

バレンタインというイベントから1ヶ月が経ったようだ。あの日を境に、雄二郎先輩はところ構わず「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言うようになった。まったく困ったものである。
何度も断っているのにめげないところを見ると、相当好かれているのだろう。それは嬉しいんだけど、あんまりしつこくされるとウザいっていうか…。直球で言っていいなら、いい加減諦めろよ。

「先輩、あんまり言い過ぎると冗談っぽいですよ」
「冗談だったら名前選んでないだろ」
「どういう意味だ」
「好きだってこと」
「意味不明です」

というか、ここが編集部ってことわかってるのかしら(わかってやってた方が質悪いけど)。今日も先輩を軽くあしらって仕事を押し付けておいた。黙って仕事してればそこそこいい人なのになあ。言わないけど。

「今日もやってましたね」
「山久ー…なんとかしてよー」
「無理です、後輩なんで」
「この真面目が!」

そんなこと言ったら私だってあの人の後輩だよ。雄二郎先輩は先輩っぽくないし阿呆だから何言っても大丈夫だよ!たぶん!
山久と小声で揉めていると、向こうの方からちっさい紙切れが飛んできた。開いてみると、「山久と喋ってないで仕事しろ」なんて書いてあった。…噂をすれば雄二郎先輩だな。なんかムカついたので先輩のデスクに向かって消しゴムを投げておいた(見事命中した!)。


―――


「なあ、」
「なんですか?」
「俺の何が駄目?」

あら珍しい、まともな質問が出てきた。しかしそう言われたところですぐには思い浮かばない。というか私の捻くれ度合いに問題があるだけで、雄二郎先輩に非はないんじゃないだろうか。
…告白断ってるのに正当な理由がないっていうのもどうかと思うけどさ。

「…別に駄目じゃないですけど」
「付き合ってくれないじゃん」
「そういうのじゃなくて、人間性とかですよ。気さくだし優しいし、職場の先輩としては好きです」
「きゅ、急に褒められると照れるな…!」

そう言う先輩を見ると、本当に照れているようで耳が真っ赤だ。いや、そんな照れ方やれるとこっちも照れるんですけど。
それから先輩のテンションの上がり方は絶好調で、調子に乗って根掘り葉掘り聞いてきた。そうやってすぐ図に乗るところは微妙ですよ。せめてもっと大人しかったらなあ…(言ってやらないけど)。
――そんなこんなで、結局休み時間と空き時間は今日も先輩に取られてしまった。この野郎、私のティータイムを返せ!

「もういいですか」
「まだ時間あるだろ」
「長いんだよ話が!テンション下がる!」
「好きだって言ってるのに名前が無視するからだろ!」
「めんどくさいですね…じゃあ私も好きですよ」
「めんどくさいって………、え?」
「先輩が煩いから付き合ってあげます。飽きたらポイです。ただし、浮気は認めませんから」

じゃ、と言って編集部を出ようとするが先輩に腕を掴まれて阻止された。今はみんな出ていて誰もいないからいいけど、これ見られたら私の首が危ないわ。

「…好きっていうのは嘘じゃないよな?告白が捻くれてるだけで」
「捻くれてて悪かったですね」
「もう一回言って」
「…私も好きです」

本当は少しだけ嘘吐いてて、たぶん先輩のことは友達として好き。でも好きと言われて嫌な気分にはならないところとか、話が長くても最後まで聞いてはあげられるところとかを見ると、やっぱり好きなんだと思う。
その日は先輩が家まで送ってくれて、別れ際に「バレンタインのお返し」と、小さな箱を渡してくれた。「…こんな気のきいたことも出来るんですね」とまた意地を張ってしまう私を、どうしてこの人は好きになったのだろうか。


不思議でならない
(意地っ張りが可愛いとか、言ってくれてたっけ)

―――

読み返してアッー!ってなった。急展開過ぎて。ギリギリ間に合ったよ!



120314
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -