甘いものが食べたいと言われましても、私お菓子作りが得意なわけじゃないんですよ。雄二郎さんの発言に驚きつつも冷静に返事をすると、「一番簡単なものでいいから」とお願いされてしまった。くそ、私がお願いに弱いと知ってるからって…!
仕方なく、帰ってレシピを開いて見るものの、どれも難しそうに見えるのは気のせいだろうか。だいたいなんで私が雄二郎さんのために…(以下略)。まあ、無駄口を叩いても始まらない。不味くても文句言わせないんだから。
なんて思いながら作ったシフォンケーキは、意外なまでに美味しく出来上がってしまった。人間やれば出来るもんだなぁ…。

「ということで胃薬は必要ないですよ」
「最初から用意してないけどな」
「買い被りすぎです」
「普通だよ」

ありがとうと言われてしまえば昨日の苦労がどうでも良くなってしまう。頼まれたら断れないし、お礼を言われたらすぐ喜んじゃうし。…この癖、どうにかした方がいいな。一生雄二郎さんにこき使われる。

「余りはどうした?」
「誰かにあげようか迷ったんですけど、ラッピングも面倒なので家に放置してきました」
「うん、よろしい。誰にもやるなよ」

…いよいよ意味がわからないが、とりあえず頷いておく。疲れて頭おかしくなったのかなこの人。まあ私にお菓子作りさせる時点でおかしかったんだけどね。
あんまり気にしないようにしようと携帯の画面に視線を落とす。そのまま雄二郎さんと話していると、山久がエレベーターから出てくるところに遭遇した。

「あれ、おはようございます」
「おぉ、山久」
「おっはよー」
「外で何してるんですか?」

あ、お菓子見られたらマズいかな(雄二郎さんの分しかないし)。でもまぁ、そこは後輩だからね、我慢してくださいってことでいいでしょう。
平然と携帯を眺めていると、雄二郎さんの手元を見た山久が吃驚したような声を上げた。

「え…それ、バレンタインのやつですか?」
「バレンタイン?」
「え?名前気付いてなかったのか?」
「今日バレンタインでしたっけ?」
「2月14日は間違いなくバレンタインデーですね。先輩、女子としてそれはどうなんですか…」
「女子力低くて悪かったな」

どうせもう25、四捨五入したら30なんだから女子と言うのかも危ういんじゃないだろうか。チョコレートなんか作ってもあげる人いないし、雄二郎さんにはいつもお世話になってますの義理ってことで。解決解決。
1人で勝手にまとめて編集部に戻ろうとしたが、後ろからがっつり襟を掴まれた。首締まったらどうしてくれるんだ雄二郎さん。

「つ、つまり…俺がどういう意味で欲しがってたかもわかってないのか?」
「義理でも欲しかったからじゃないんですか?」
「違う!!」
「…俺はお先に失礼します」

あ、山久に見捨てられた。ちくしょうあの薄情者め、あとで覚えてろよ。
ぶっちゃけ雄二郎さんって怒るとめんどくさいし、話とかお説教とか長い(しかも途中で話ズレるし)。私の中では逃げるという選択肢しかないんだけど、それも許してくれそうな雰囲気ではない。

「だから、」
「ごめんなさい」
「なんで謝った!?」
「え?雄二郎さんが怒ってるっぽいのでとりあえず謝っておこうかなと」
「なんだ…」

もしかして怒ってないのだろうか。なんか小難しいことを考えているであろう雄二郎さんを置き去りにして編集部へ逃げ込みたい。でもそんなことしたらあとで何されるかわかったもんじゃないからな…。
仕方なく雄二郎さんの考え事が終わるまで待っていると、意を決したであろう雄二郎さんにがしっと肩を掴まれた。え、何事?

「名前、」
「は、はい」
「好きなんだよね」
「…はい?」
「好きなやつからチョコ貰いたいのは当然だろ?」
「はぁ…?」
「…なんでさっきから生返事?」
「理解不能だから」
「だと思ったけどな!」

なんだ、わかってるなら言わないでくださいよ雄二郎さん。好きな子からチョコレート云々の話はもういいから仕事しましょうね。
まだぐだぐだ言っている雄二郎さんを編集部内に連れ込めば、諦めたのか途端に静かになった。睨んでるようにも見えたけど、どうせ今怒られたってあとで怒られたって一緒だ。バレンタインはどうでもいいから、早く仕事片付けちゃお。雄二郎さんは今日1日無視だな。


雄二郎さんは 心に 120のダメージを受けた! ▼
(返事くらいしろよ…)(………。)(…俺名前のこと好きだからそろそろ本気で傷つくぞ)(………ええええ!?)

―――

不完全燃焼!やっぱりバレンタインに多数ジャンルで夢書くもんじゃないですね!もう死にそう。



120214
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