山田先生に会うため利吉さんが忍術学園に来ているらしい。その噂を耳にして学園中を探し回っていると、突然誰かに後ろから抱き付かれた。気配に気付けなかったのは悔しいけど、身体の大きさとか匂いで判断する限り、抱き付いてきたのは利吉さんだ。探す手間が省けたのは幸運だった。
利吉さん、離してください。そう言ったのに彼の耳には届いていないらしく、逆に腕の力が強くなった気がした。たくさん聞きたいことがあるのに、こんな状態で話をしなければならないのか。

「利吉さん、お話したいので離してください」
「このままでも出来るよ」
「大声出しますよ」
「…人を変質者みたいに言わないで」
「見かけた瞬間抱き付くなんて十分変質者です」

最初はこんな人じゃなかったのに何で残念な感じになってしまったのだろうか。少し前どちらかといえば私の方が利吉さんにべったりだったのに、いつの間にか立ち位置が逆転してしまった(べったりと言っても一年生に混じって質問攻めしていただけ)。
それなのにある日突然「名前ちゃんが好きだよ」なんて言われて思わず目が点になった。利吉さんはカッコいいし頭も良いし優しくて本当に非の打ち所がない。だからといって私は利吉さんに尊敬以上の感情はないので、丁重にお断りしたはずだ(それなのにべたべたしてくるってことは暇なのか)。

「私利吉さんに聞きたいことがたくさんあるんです」
「そうなんだ。仕事関連じゃなければ嬉しいんだけど」
「…駄目ですか」
「そうは言ってないよ」

何かぶつぶつ言っている利吉さんをあの手この手で引き剥がし、一緒に中庭を散歩することに。話すなら私の部屋がいいとか言われたけど、部屋に上げたら何されるかわかったもんじゃない。
そんなことはさておき、利吉さんへの質問のことだ。きっと真剣に聞いても仕事の話はしてくれない。とりあえず機嫌を取ってからテンポよく次の話題に移してしまうのがいいだろう。

「利吉さん、聞いてもいいですか?」
「私が答えたくなるような質問なら喜んで答えるよ」
「えー…うーんと、じゃあ何で私のこと好きになってくれたんですか?この前まで私のこと知らなかったでしょう?」

そう言えば、さっきまでにこにこしていた利吉さんが一瞬固まった。もしかして不意をついたのかな、なんて思ったが、利吉さんは誇らしげな顔で私について語ってきた。

「最初から名前ちゃんには目を付けてたよ?一年生に混じって可愛いなーって」
「…子供っぽくってすみません」
「やだなぁ褒めてるんだよ?目をきらきらさせながら話を聞いてくれるのも可愛かったし」
「そう、ですか…」

あんまり可愛い可愛いと連呼するものだから、無条件に照れてしまう。友達同士でとかならあるけど、男の人から可愛いなんてなかなか言われない。恥ずかしくて顔を背けるとそれすらも可愛いと言われてしまった(利吉さんは恥ずかしくないのだろうか)。
すぐ他の話に持っていくつもりだったのに、最初にする質問を間違えたなあ…。利吉さんは私の反応に気をよくしたのか、調子に乗って肩や腕に触れたりするようになってきた。――こんなのおかしい。利吉さんにどきどきするなんて間違ってる。

「調子に乗らないでください」
「怒った顔も可愛いよ」
「…狡いです」
「私のことを好きになってくれない名前ちゃんも狡いよ」
「…年が、」
「三つしか変わらないだろう」

三つしか、ではなく三つも違うのだ。利吉さんは十八で私は十五、もっと言うなら大人と子供だ。どちらかの年が止まることも早まることもない。自分がまだ子供だなんて等の昔にわかってはいるが、それでも利吉さんに子供だとは思われたくないのだ。
私が思うに利吉さんは私への子供扱いを全て可愛いという単語に変換している。だから、どきどきするなんて本当におかしなことなのだ。

「と、とにかく、利吉さんとお付き合いは出来ません」
「了承してくれるまで訪ねるからね」
「…子供をからかって何が楽しいんですか」
「名前ちゃんのこと子供だと思ってないよ?」

その言葉に吃驚して顔を上げると、頬に利吉さんの唇が落ちてきた。かぁっと赤くなってしまった顔を隠そうとしたが利吉さんによって阻まれる。恥ずかしい。何故この人は恥ずかしげもなくこんなことが出来るのだろうか。…否、手慣れているのであろう。
山田利吉と聞いて拒む女性などいない。寧ろ群がってきてもおかしくない程顔の造りがいいと思う。私だってどちらかといえば好みかもしれない(顔だけで言うならね)。それ故なのか、大人の女性の方がいいんじゃないか、なんて言えない言いたくもない。

「子供扱いが嫌なんだね?」
「…利吉さんにされるのは嫌かもしれないです。あと可愛いとか言わないでください」
「子供扱いしてるつもりはないけど、そう言うなら改めるよ。今みたいな口付けは毎回するし、可愛いは全部好きに変換する」
「…余計恥ずかしいことになりそうです」
「照れ屋なところも好きだよ」

結局利吉さんに言いくるめられてしまい、恥ずかしいことには変わりない。どうすればこの人から逃れられるかなんて、この先にも後にも誰も教えてくれないのだろう。


甘い呪縛と羞恥心
(いい加減両想いだって認めたらいいのに)(嫌です。利吉さんの思うようにはさせません)(手強いね)(それほどでも)



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