「好きだよ留三郎」

二年生の時だっただろうか。勇気を出してそう言った私に留三郎が笑いかける。「俺も好きだ、これからも仲良くしてくれ」と言われ、こいつには女の子と認識されていないんだということが明確になった。このまま好きでいても仕方ないと諦めたのが三年生の頃である。
――ふっ切れてからの今まで、留三郎には何も感じていなかったかのように接してみた。すると不思議なことに、恋い焦がれていた時とはまた違う良さが見えてきたのだ。優しいし、いろいろと頼りになる。なんだ、最初から友人として見ていれば、あんな思いをせずに済んだのか。本当に馬鹿な女だったな。

「名前、倉庫整理の手伝い頼んでもいいか?」
「高くつくよ?」
「今度の休みに団子奢ってやるよ」

駆けてきた留三郎を見て何事かと思えば、たまに手伝っている委員会絡みだったようだ。倉庫の整理なんて、徹夜すれば出来てしまうものではないだろうか。むしろ私に手伝わせて、お団子を奢らなければならなくなる方がよっぽど損だと思ったのは今回だけではない。まあ、留三郎がいいならいいんだけどね。
すんなり了承して倉庫に向かうと、なんだかいつもより酷い気がした。いや、散らかってるとかそういうレベルじゃなくて…倒れてきそう。

「…何これ?」
「……しんべヱと喜三太が、」
「ああ…ぽかぽかね」
「ぽかぽか言うな」
「最初に言ったのは仙蔵だよ」

どうやら最初にしんべヱと喜三太が倉庫を整理しようとしてこうなったらしい。おっちょこちょいにも程があるよ。そう言いながら留三郎を見ると、困ったように笑ってみせた。出来はどうあれ、やはり下級生たちは可愛くて仕方ないようだ。

「夜までに終わらせようぜ」
「はいはい委員長」
「…なんだよ急に。気持ち悪いな」

おふさげは置いといて、とりあえず大きな物から奥へ仕舞っていく。あんまり重そうなのは危険だからと、留三郎は気を使ってさっさといろんな物を退けてくれた。やっぱり女より力はあるな…まあ当たり前か。
バラバラに散らばった工具などを広い集めていると、倉庫の奥で何やら光っている物を見つけた。思わず側まで行って拾い上げると、いつだか無くした自分の簪だった。やっぱり用具倉庫にあったんだとため息を吐くと、どうしたのかと留三郎も此方へ歩いてきた。

「簪、無くしたって騒いだでしょ?ここに落ちてたのよ」
「あー…この前工具を取りに来た時だな」
「よかった、タカ丸に申し訳なかったんだよ」
「…タカ丸?」

タカ丸の名前を出すと、留三郎が驚いた顔をした。実はこれ、髪を結ってもらった時に貰っちゃったんだよね。吃驚したけど嬉しかったなぁ、なんて呟くと、留三郎は何ともいえない仏頂面になった。こっちはるんるんなのに、なんて顔してんだこの野郎。

「お前、まさかタカ丸と恋仲なのか?」
「いや恋仲じゃないけど…何、文次郎みたいに三禁どうこう言うつもり?」
「あいつと一緒にすんじゃねぇ!」
「どっちでもいいけどさ、口より手動かした方がいいよ」

箱に入った工具を留三郎に押し付けて、簪を仕舞い込んだ。そこまで大事ってわけじゃないけど、それでも人から貰った物を邪険に扱う程出来が悪いわけではない。タカ丸の方も私の髪に似合うと思ってくれたんだし、別に意味があってくれたわけではないと思うけど。
それにしても、なんだか留三郎の様子がおかしい。仕事はこなしているが、どこか心ここに有らずといった感じだ。
そんな留三郎が気になりながらも順調に道具を片付けられ、徹夜は間逃れた。さすがに留三郎も疲れたようで情けなくため息を吐いている。

「留三郎、なんか変じゃない?心配事でもあるわけ?」
「…お前に、言わなくちゃならないことがある」
「何よ」
「名前、好きだ」
「!」

それはもう、心底驚いた。留三郎の目は真剣そのものでからかっている様子は微塵もない。もっとも、こんなことで嘘をつけるような人柄も持ち合わせていないだろう。
もちろん留三郎のことは好きだ。でも昔みたいな意味ではなくて、あくまで友達として。そう考えていると、何故か二年生の時のあの記憶が鮮明に蘇ってくる。不安そうな顔の留三郎をよそに、口角を上げながら呟いた。

「私も好きよ、これからも仲良くしてね」


過ぎた熱をなぞる
(一瞬だけ肩を震わせた彼は、私を抱きながら一言謝った)


(title)確かに恋だった
120219
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