※暗い、狂ッテル


正直、一番相性が悪いと思っている。それは相手もひしひしと感じているだろう。というか感じてなかったら…相当空気が読めていない。
目の前で口角を上げている南沢篤志を睨むが、怯むどころかその口角は上がるばかり。これはもう顔の造りが良いというだけでは済まされない。顔がどうであっても今のお前は薄気味悪いよ。他の女子に言わせれば「カッコイイ」のだろうけど、私から言わせれば吐き気すらするね。南沢の気持ち悪いくらいの笑顔。そして眉間にこれでもかと皺を寄せている私。端から見たら一体何をしているのやら分からないだろう。
信じられないというか信じたくもないのだが、私は南沢篤志に所謂告白、というやつをされたらしい。しかもやつの言動から読み取るに、私に拒否権はないらしい。「どうする?」と相変わらず笑いながら聞いてくるが、答えはお前が決めているに等しいんだよ、下衆が。

「…南沢、正気?」
「あぁ、正気だよ」
「私に正気かと聞かれる時点で君は正気じゃないよ…」

聞くだけ無駄だったのだが、どうにも南沢は少々頭が狂っているらしい。いや、こいつの頭は元々オカシイんだけど。それとはまた違っている。自分にとって有益な判断が出来なくなっているのだ。
南沢が私と付き合う。南沢も私も誰一人として特なんてしない。どちらかといえば損をすると考えるのが普通だろう。まあそうなると、その損の殆どを南沢が抱えることになるのだが。
散々南沢のことを言ったが、その南沢よりオカシイのが私だ。もう頭どころの話ではない。正気の沙汰じゃない。

「お前がそういうやつでも好きなんだ」
「…遠回しに死にたいと言ってるの?」
「ははっ、まあそうなんのかな」
「笑いながら言わないで」

南沢が言ったことは信じられない。信じられないというか、理解出来ないと言った方がしっくりくるかもしれない。南沢が私を好きになる理由は知らないが、真実を知って尚、好きでいてほしくはなかった。
――私は人より嫉妬深いのだ。かわいいやきもち、なんてそんな甘い言葉では言い表せないくらい醜くて、残酷だった。今まで付き合ってきた人たちのことは別に好きじゃなかった。でも付き合っているという事実だけで、執着心と束縛したい気持ちが芽生えたのだ。それからが酷くて、相手が他の女子と話すたびに当たり散らし、酷い時は殺しかけた。次は殺すかもしれない。
自分からは愛情表現なんて一切しないのに、なんて勝手な話だろう。最初はそれでもいいと言っていた彼も、もう暫く会っていない。ケンカ別れというか、転校すると言われ自然消滅した形だ。もう付き合ってないので今会っても嫉妬しないだろう。それからは同じようなことの繰り返しだった。そして次の被害者は南沢篤志らしい。

「…付き合ってもいいけど、南沢とは、もって一週間だなぁ」
「なんでだよ」
「南沢って浮気性っぽいし」

ぽろっと出た言葉に南沢はあからさまに顔をしかめた。せっかくのお顔が台無しですよ。まあ私はちっとも良いと思わないからいいけど。

「俺は一途だよ」
「そうかな」
「浮気したら殺してもいい」
「…はは、」

南沢は笑いながら言ったが、その意思表示の仕方はどうだろうか…。冗談なら未だしも、どうやらこの男は本気のようだ(私に言うくらいだし)。いくらなんでも重い愛だと思う。いくら南沢が好きな子でも、普通の女子なら引くと思うよ。
――まあ、普通の女子なら、だけど。
思わず笑みが溢れる。南沢ことは、軽そうな見掛けからか、女好きだと思ってた。そんなやつが実は私みたいなキチガイを好きになって、自らもキチガイになろうとしている。いやもう、引くどころか面白いよ。南沢、ほんとに浮気しないのかな。それとも私が気付かないようにしてくれるのかな。…どちらにしろ楽しみだ。

「言われなくても殺すから安心していいよ」

遠回しな了承に気付いた南沢の顔は、それはそれは歪んでいた。ああ、いつもの胡散臭い笑顔より、この歪みきった笑顔の方がずっと好き。私と同じように正気じゃない南沢は、今までの誰よりも好きになれる気がした。
たくさん楽しませてね。ほんとに一途だったら、ほんとに好きになってあげてもいいよ。歪んだ愛なら、いくらでもあげられるから。一途だったら、ね?


*しましょう
(あなたを殺すのはいつになるのかしら)


130301
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