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夜もすがら


玄関の扉が開く音で、浅い眠りから覚醒した。あ、帰ってきたかな。眠たい眼をこすりながら寝室の扉を開け、キッチン向かう。

「一静、おかえり」
「悪い、起こした?」
「ううん、起きてた」

今日は遅くなるから、と出社前に告げられていた。最近、大きな案件をいくつも抱えた彼は、日付を越えてから帰宅する日々が続いている。

「ごはんあっためるね、シャワー浴びてきたら?」
「そうする」

気持ち疲れ顔の一静を見送って、リビングのテレビをつける。深夜のバラエティ番組を探し当てると、よしと腕まくりをしてキッチンに立つ。
15分後、Tシャツにスウェットという部屋着姿で現れた彼は、お風呂上がりの蒸気した色気を漂わせていた。


「今日の夕食は一静のすきなハンバーグでーす。チーズのっけてチンするね」
やっぱりどこか疲れているような気配を感じて、わざとおどけた声をあげながら手早く付け合わせのキャベツをお皿に盛りつけていると、後ろから一静に抱きしめられた。


「一静?」
仕事でなにかあったかなと思いながら、されるがままに身を委ねる。一静の長い腕がお腹の前に周り、ぎゅうっと力を込められる。

「今日は随分と甘えたさんだね」
お腹に回された腕に自身の手を添えながら語りかけると、無言で抱きしめる腕に力が入った。

「なまえ」
優しく凪いだ声が頭上からふって来る。高校時代から大人びた風貌をしていた彼が動揺するところを、わたしは見たことがない。そして、卒業から10年近く経った今も変わらない包容力でわたしを包んでくれる。
いつもめいっぱい甘やかしてくれる彼が、こんな風になるなんて。明日は季節外れの雪がふりそうだ。

「一静、顔見せて?」
ガッチリホールドされている身体をなんとか回転させて一静と向かい合う。お風呂上がりの蒸気した彼がまとう色気にあてられて一緒クラリとするけれど、ためらわず一静の唇に自身のそれを重ねた。

ちゅっとかわいいリップ音を残して離すと、ぎゅうっとしがみつくように正面から抱きしめた。

「おかえりなさい、あなた」

一静は一瞬驚いたように動きを止めたけれどすぐに優しく抱きしめ返してくれた。

「お前、あんまりかわいいことするんじゃないの」
そういってわたしの大好きな大きな手がクシャクシャと頭を撫でる。

「ご飯、食べるでしょう?」
「うん、でも」
何食わぬ顔で耳元に顔を寄せた彼が囁い言葉に、わたしが赤面するまであと3秒。

夜もすがら
(今日はちょっと疲れたから、たくさん甘えさせて?)

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