かわいいひと


「良いですか。次に僕をからかう様な事をした場合、帰れないと思いなさい。」
口角をひくひくと痙攣させて、蛙メットに三叉槍(トリアイナ)を突き刺している藍色のパイナップルは言った。
「えー。師匠ったら器が小さいですねー。
そんなだから、マフィアを隠滅出来なかったんですよー。」
ぐさり
「もう一度言ってみなさい。」
「あははー。冗談ですよー。」
師匠と軽い(?)暴力と殺意混じりの話をしながら荷造りを進める。
百蘭との戦いが終わり、フランは黒曜に帰って来ていた。
骸曰く、「師匠への尊敬する態度が見受けられない」とのことで。
「その態度が身に付くまでヴァリアーには帰しません」と、単に親心からくる命令を受けたのが5日前。
黒曜に強制連行された。
2日目に、ベルフェゴールから怒りの電話がかかってきた。
フランがいなくなった事に対する怒りが爆発していて、抑えるのに必死になっていたら、骸に端末を奪われて。
その日は、一日中、ベルフェゴールと骸が電話越しに怒鳴りあっていた。
結果、三日後にヴァリアー帰ることになったのだ。
今日は日本のボンゴレ基地にベルフェゴールが迎えに来ている。
「じゃあ、お世話になりましたー。」
荷造りを終えたフランは荷物を入れた鞄を肩から下げて、ペコリと頭を下げた。
やれやれ、と肩を竦めながら骸は微笑んだ。
「ええ、練習を怠ってはいけませんよ。」
そう言うと、霧のように消えていった。
フラン自身、このような事には昔から慣れていた為、然程驚きはしなかった。
もう一度、荷物を肩にかけ直しながら「黒曜ヘルシーランド」を出た。
正門の前には、薄汚い廃墟には似つかわしくない真っ黒いリムジンが停まっている。
ボンゴレが寄越したのだろう。
それを一瞥してから、くるりと振り替える。
「黒曜ヘルシーランド」
崩れかけた文字がその場所を示していた。
そして、同時に思い出す。
ミーが此処に来たときの事を。
初めて、
犬ニーさんと千種ニーさんに会った時を。

その日、ミーは死にかけていた。
ミーが住んでいたのは、
自然に囲まれた山の麓にある村。
雨が降った次の日の川は、流れが早く、とても泳げるものではなくて。
異色の髪色から迫害を受けていたミーは 泳ぐことも教わらなかった。
そんな時に、突き落とされてしまったのだ。
当然の様に溺れては大量の水を飲んでしまい、
下流の方に流されていった。
川辺に打ち上げられ、死にかけていたミーを
師匠が見つけてくれた。
此方に手を伸ばして
『僕の、弟子にしてあげましょう。』
世界が変わった瞬間だった。
息も絶え絶えだったミーは師匠にすがり、助かった。
そんな出会いを果たしてから15年。
ヴァリアーに拉致された後、ナイフを振り回す狂乱者に見込まれ(?)、所有物とされつつある日々。
「フラン様、お乗りください」
黒スーツの男の声で現実へと戻ってくる。
声の方を見ると、ドアを開けて待っていた。
軽く会釈をして車内に乗り込む。
窓から見える黒曜ランドは、相変わらず古くて近寄りがたい。
それでも、ミーにとってはとても落ち着く場所なのだ。
無意識の内に微笑んでいる事に気付き、ため息を吐いた。
「また、きてやってもいいですよー。」
誰にも気づかれない位に小さな声で呟いた。
そして、しっかりと目に黒曜ランドを焼き付けると、静かに瞼をおろした。







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