殺したいほど××してる




「ひぐ、ぁ…いっ…」
ぐり、と自分のそれで奥を抉るように突けば、白い背中は大袈裟なまでにびくんと跳ねた。
「いて…ェ…っあ…」
苦しそうに喘ぎながら呻いた総悟は、うでの力が抜けたのか、かくんと布団に伏して俺に掴まれている腰だけが上がっている体制になる。
「イテェなんていいながらも喘いでんじゃねェか」
こんなみっともない格好になるくらいには、感じているんだろう、勝手にそう決めつけて、また腰を動かす。
「ふ、んっ…ぐぅ」
唇を噛み締めているのか、くぐもった声を漏らす総悟は、きっとプライドを散々傷つけられて、怒りや哀しみでいっぱいなのだろう。
細く骨ばった白い手は、指先が白くなるほどにシーツを握りしめていた。
それを見ると、全身をゾクゾクとしたものが駆け上がる。
生意気なこの子供を、自分が支配しているということへの快感だろうか、たまらない。
下唇を舐めるのは、昔からの気分が高揚した時の癖で、今回も例によってちろり、と舐めた。
ほんのりと、鉄の味がする。
それは、最初に総悟に口付けた時に抵抗して噛まれたモノだ。
またもや快感に呑み込まれそうになる。
抵抗してあんなにも鋭い目で俺を睨んでいた奴が、俺のしたにいる。
「…はっ…だす、ぞ」
もうそろそろ絶頂を迎えると判断し、枯れた声で言えば、総悟は「ん"ーっ!!」と最後の抵抗なのかくぐもった声で叫んだ。
だがそれに構わず、腰を動かして奥まで突きいれると、そこに精を放った。
「ぅ"ぅ"う"う"…」
堪えるような、怒りに震えるような声を出した総悟は、出された感覚にまた呻いて身を竦めた。
出した余韻に浸っていると、総悟がずり、ずり、と這って枕元の方に行こうとしている。
もう寝るのだろうか、夜はまだこれからだというのに。
だが、初めてにしては上出来だろう。
抜いてやると、不意打ちだったのか僅かに高い声を漏らした。
それにまた快感が走るのを、理性で押さえつける。
乱れていた下半身の身なりを整えてから、側にあった隊服に手を伸ばしてポケットを探り、煙草とライターを取り出すと、煙草をくわえて火をつけた。
深く煙を吸い込めば、心が幾分か落ち着く。
ゆっくりと吐き出すと、一瞬視界が白い靄越しでしか見えなくなるが、慣れた感覚はかえって心地よい。
カチリ、後ろで聞き慣れた音がした。
反射的にバッと振り返り、瞬間目に移った白銀に光るそれを身を屈めて避ける。
「チッ」
総悟は、舌打ちをして今俺を殺そうとしてふったぎらり、と鋭い光を放つ刀を持ち直した。
「てめェ…」
いつものふざけたバズーカなんかじゃなくて、今のは本気で殺しにきていた。
「ふざけんな、」
息を切らしながら、総悟は殺意のこもった目で俺をぎろり、と睨めつけた。
「殺してやる」
歯を食い縛って低い声で言うが、怒りで剣先が震えており、ましてや座っている状態だ。
押さえ込むことなど造作もないだろう。
なんの考えも無しに、ただ俺への殺意だけで動いたのだと思うと、たまらなかった。
立ち上がり、わざとゆっくりと近づく。
それにあわせて立とうとした総悟は、しかし立てないのか悔しそうな顔をしただけだった。
近づいた俺に、殺すと言った割に怯えたように刀をふりまわす。
だが、刀の間合いに入るといよいよ本気で俺の顔をめがけて突きを繰り出してきた。
咄嗟のことで、体を半身にして避けたつもりが頬に走った鈍い熱に斬られたのだと悟る。
「ぁ…」
自分でやった割に、これまた怯えたような声を出した総悟は俺が見下ろすとびくりと体を硬直させた。
「やってくれるじゃねェか」
ニイッと口角を上げながら近寄ると、総悟はもう刀をふらなかったが、顔を蒼白へと変えていく。
「ひ、ごめ…なせ、」
俺は今どんな顔をしているのだろうか、怯える総悟は後ずさった。
だが、逃がすまいとその手から刀を取り上げて、仰向けに押さえ込んだ。
「やでさ、土方さん…ッ…」
切羽詰まった涙声が懇願するように俺に向けられる。
ペロリとまた下唇を舐めていた。
「大人しくしてろよ」
片足で背中を踏みつけ、刀を逆手に持つ。
は、と声をあげた総悟が首だけでこちらを見て、驚愕にか目を見開いた。
声も出せなくなったように、震えている。
快感に呑み込まれそうになりながら、そっと切っ先を総悟の首筋に落とした。
「ひ、ッ」
息を飲んだ総悟に構わず、それを僅かに差し込むとプツリと赤い血の玉が浮き上がった。
それを、すっとそのまま下に一直線に下ろすと、先程と同様に、シーツを指先が白くなるほどに握りしめていた。
真っ直ぐに引かれた直線に真っ赤な血が滲む。
「い、てぇ…ッ」
「『背中の傷は武士の恥だ』」
「ッ!!」
武州にいた頃、近藤さんによく言われていた。
江戸に出てきてからは、以前より聞く頻度が少なくなった言葉だが、総悟はしっかり覚えていたらしい。
バッという効果音がつきそうな勢いで振りかえったからだ。
背中に乗せた片足に体重をかけて、総悟の前髪を掴み、グイッと引き寄せる。
痛みに顔をしかめているそいつの耳元に口を近づけ、囁く。
「今のお前の背中を見たら、近藤さんは」
何て言うんだろうな。
総悟の目が徐々に開かれていき、やがて唇は震えながら言葉を紡いだ。
「いわねェ、で」
ぎゅっと唇を噛み締めたあと、もう一度、今度は泣きそうな声で叫ぶようにして言った。
「近藤さんには言わねェで…くだせ、」
ボロボロと目から光の粒がこぼれ落ちるように、きらきらと大粒の涙が落ちていく。
「ぜったい、近藤さんには…」
「言わねェよ」
パッと前髪を離すと、鈍い音を立てて総悟の頭が落ちた。
相も変わらず怯えきった捕食される前の、か弱い獲物の様な目でこちらを見上げる総悟に、またぞくりとする。
「愛してる」
耳元でまた囁けば、ぐにゃりと歪な表情をして、総悟は泣きながら呟いた。
「死んじまえクソ土方」
俺はその声を聞いて歓喜に震え上がる。
今度ばかりは、もうそれを抑えきれなかった。
頬が引き吊っている感覚に、わらっているのだと実感させられる。
となると、今欲のままに握り拳を振り上げているというのに、満面の笑みを称えている俺はまるで酷い奴じゃないか。
腕を降り下ろす直前、そんなことを思った。







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