フッと短く息を吐き、木刀を振り下ろす。 汗が目に入り、鈍い痛みに顔をしかめるも腕と足は動き続ける。 身体が勝手に動くような感覚に苛まれながら、素振りを続けていた。 「3001ッ」 肩がずきずきと痛み、腕が軋むようだ。 それでも、俺はもっと強くなりたいという一心で木刀を振り続ける。 姉上が亡くなった。 人並みの幸せすら感じさせてやることもできないまま、俺は姉上を逝かせてしまった。 それは、俺の勝手な都合なのかもしれないが、せめて俺のために生きてきた姉上に幸せになってほしかったのだ。 昔から病弱な姉上は、親代わりとして俺を育ててくれて、俺はそんな姉上が大好きだった。 だから姉上を傷つけたアイツが、すべて奪っていく土方が許せなかった。 大嫌いだった。 近藤さんや姉上、みんなが俺から離れていく。 それを後ろからずっと見ていた。 姉上も近藤さんも、本当は俺なんかといるよりも、アイツといた方が楽しいのかもしれない。 でも、そんなことを優しい姉上や近藤さんに聞ける訳がなくて、いつも袴を握り締めて俯いて唇を噛んでいた。 大好きな近藤さんに褒められたくて、一生懸命竹刀を振った。 大好きな姉上に褒められたくて、わがままは言わなかったし、好き嫌いもしなかった。 なのに、突然表れたアイツが全部俺から奪っていく。 俺がしてきたことはなんだったのだろうか。 「3020、ッ」 汗が散り、明瞭になった筈の視界はそれでもどこかぼやけていて、輪郭が掴めないままだった。 "総悟が帰ってこないんだ" 涙目の近藤さんは、珍しく書類を机いっぱいに広げて泣きそうな声で言った。 "総悟家出しちゃったのかなぁぁ!"と狼狽える(急に入った明日までの書類からどうしても手を離せない)近藤を宥めて沖田を探しに行ったのがつい先ほど。 近藤の過保護で、沖田は帰ってきたら必ず近藤の元に顔を出すことになっていた。 それが、いつもは飯の時間には帰ってくるはずなのに、まだ帰ってきていない。 だが、沖田ももう18だ。 子供と呼ばれる年ではない、だが昔から沖田を可愛がっている近藤からすれば、いつまでたっても子供なのだろう。 それに、ミツバが逝去したばかりだ。 よく無茶をする沖田を考えると、近藤が狼狽えるのも無理はない。 ぐり、と煙草を踏みつけて火を消してから、土方はまた歩き出す。 部屋にも食堂にもいない、見廻りにでている隊士達にも沖田を見たら連絡するよう伝えた。 だが未だに連絡は入ってこない、となるとあとは武道場だけだ。 武道場の重い戸を開けると素振りの風を切る音が聴こえる。 締め切られた武道場の中は、戸から射し込む僅かな月明かりで足元が照らされるだけで、辺りは闇に等しい。 しばらく目をしばたかせて、暗闇に視界を馴染ませなければならなかった。 「土方さん」 暗闇の中から声がした。 こちらは月明かりを背負っているわけだから、あちらからは姿が見えているのだろう。 だんだん暗闇に慣れてきた目で土方が武道場を見渡すと、隅の方で下段の構えに入っている沖田を見つける。 「飯の時間はとっくに過ぎたぞ」 遠回しにキリをつけろと伝えると、沖田は暗くて表情までは見えないが「へい」と一言だけ返して中段の構えをとると、蹲踞をして数歩下がり一礼した。 慣れた動きのそれは、見入る程美しい。 昔から変わらない、土方がそんなことを考えていると、沖田はもう出口に向かって歩き出していて、すっと土方の横を通っていった。 一人残された土方は、沖田を目で追いながら武道場の戸を閉めた。 「総悟」 静寂に、暗闇に声が響く。 ゆっくりと振り向いた顔は、元から白いのが手伝ってか月明かりのせいか、青白く見える。 「なんですかぃ」 だが、それはいつも通りのポーカーフェイス、穏やかな顔であった。 気だるそうな声も、江戸っ子口調も、何も変わらない沖田の声。 それに何故か一抹の安堵を覚えながら、土方は告げる。 「近藤さんがえらく心配してたぞ。帰ってきてから、顔出さなかったのか」 新たな煙草に火をつけながら尋ねると、沖田は首を傾げて応えた。 「俺、今日は非番ですぜ」 「ああ、しってる」 俺が日程立ててんだから、と土方が内心で付け足しながら沖田をみると、きょとんとした顔で突っ立っていた。 「いや、だから」 向き直ってから、目線を逸らしながら困ったように笑って言葉を紡ぐ。 「屯所から出てもいないのに、言う必要はねェんじゃないですか」 今度は土方が驚かされる番だった。 「お前が非番なのに外に出ない?」 思わず聞き返すと、沖田は額の汗を拭いながら「へえ」当然だろう。と言わんばかりに返した。 「でも、一応心配してたから行っとけ」 そう言うと、土方は沖田の手首を掴んで歩き始める。 「自分でいけまさァ」 抵抗しようと身を捩った沖田だが、力では勝てずにそのまま引き摺られる様に連れていかれてしまった。 最後の方は、もう抵抗もせずにドナドナを歌いはじめていたことから、本当に自分で行く気だったのだと知り、土方は少しばつが悪そうな顔をしていた。 「近藤さん、入るぞ」 竪框を二回叩いて、障子を開けると近藤は机に手を付き、身を乗り出して泣きそうな顔で土方の方を見ていた。 「総悟ォォォ!!」 沖田の姿を確認すると、そのまま机を飛び越え、沖田に向かって両腕を伸ばしながら走ってくる。 そして、勢いをそのままに沖田を抱き締めようとしたとき、それをすっとかわされて庭に頭から突っ込んでいった。 「ああ、すいやせん。つい条件反射で」 棒読みで謝る沖田が悪いと思っていないことくらい誰にでも分かるが、近藤は泣きそうになりながらも四つん這いの姿勢で沖田を見上げてまた叫んだ。 「家出したかと思ってお父さん心配したぞ!」 「お父さんじゃねェだろ」 冷静な土方の突っ込みにもめげず、近藤は土を払いながら縁側に上がると、沖田の頭をぐしゃぐしゃと大きな手でなで回した。 「どこにいってたんだ?」 撫でながら尋ねた。 沖田は擽ったそうに身を竦めながら応える。 「今日はどこにもいってませんぜ」 白い指で近藤の褐色に近い手首を掴み、ひょいと頭から「くすぐったいでさ」と離させる。 「え、どこにもいってないの?え?」 土方と同じ反応をする近藤に、沖田は僅かに眉を寄せて「ええ」と不機嫌そうに返す。 「なにしてたんだ、ゲームか?」 不思議そうに聞き返す近藤に、一瞬沖田は目を逸らしてから「武道場で、素振りしてやした」と応えた。 すると、近藤は目を見開いたあと、豪快に笑って、両手で犬でも撫でるように沖田の頭をなで回しはじめる。 腰を曲げ、目線をあわせてニッと豪快に笑いながら言った。 「えらいな総悟!」 それにパッと顔を上げた沖田の顔は、幼い子供の様な無垢な顔で、その言葉の意味を理解したのか、やがて嬉しそうにはにかんだ。 「ほんとですかぃ?」 目線をあわせてくれている近藤に、もう一度尋ねると「おお、えらいぞ!」と額を付き合わせて誉められる。 土方はそれを後ろから見ながら、エンドレスにこのやりとりが続く予感がして、そろそろ止めるかと白い煙を吐いた。 「おい総悟、そろそろ風呂行かねェと風邪引くぞ」 ぽん、と肩に手を乗せながら言うと、近藤と二人で振り向いたあと、ひそひそと顔を付き合わせてなにかを話はじめる。 「空気が読めない人ね、まったく」 「ええ、まったくでさ。あんな奴が副長を勤めてるなんて信じられませんぜ」 ちらちらと土方を見ながら話す近藤と沖田にぶつりと何かが切れる音がした。 「うっせェ早く風呂いってこい!!近藤さんも、仕事に戻れ!!」 怒鳴って沖田の襟首を掴んでまたズルズルと引き摺りはじめると、後ろから「総悟ォー」と声がする。 それに「近藤さァーん」と手を伸ばしながら返す沖田にまたも怒鳴りそうになるのをおさえながら風呂場まで連れていった。 「全く、あんたはキレっぽくていけねえや」 他人事の様に言った沖田に、お前のせいだろ。と怒鳴りたくなるのを飲み込む。 モゾモゾと袴の紐を解き始めた沖田が「あ」と声を上げて土方を見た。 「土方さん、俺の部屋から着替えとってきて」 「なんで俺なんだよ!」 思わず怒鳴ると、悪びれもせずに沖田はため息をついて言った。 「土方さんがそのまま連れてきたからでぃ」 正論だった、チッと舌打ちをしてから土方は沖田に背を向けて、脱衣所の暖簾を腕で退けながら廊下にでた。 「土方さん」 ふと、後ろで声がした。 振り向こうとすると、また後ろから声が飛んでくる。 「そのままでいいんで」 そのままがいい、の間違いだろうと内心愚痴りながら、土方はポケットに手を突っ込み背を向けたまま立ち止まった。 「なんだ」 遠くで、隊士達の笑い声がする。 「土方さんにとって、姉上はどんな存在でしたか」 穏やかな優しい声、沖田らしくない声。 それがゆるやかな響きを持って耳から脳へするりと入っていく。 じわじわと意味を理解するにつれて、土方は今振り向かなければならないと、今ここで沖田に触れなければならないと頭のなかで警鐘がなるのを感じた。 「振り向かねェでください」 だが、ぴしゃりとした沖田の声にそれは阻まれる。 少しの静寂のなか、一瞬聞こえなくなっていた隊士達の笑い声が、再び聞こえてきた。 「振り向かねぇで、土方さん」 もう一度、今度は弱々しい声が振り向くことを止めた。 「教えてくだせぇ、土方さんにとって沖田ミツバは、どんな存在でしたか」 沖田が、何を思って聞いているのか。 土方にはとんと見当がつかず、ただいきなりでてきたミツバの存在に、心を冷やしていくだけだった。 「それを聞いてどうする」 低い地を這うような声が、廊下に響く。 隊士が聞いていたら、恐怖に身を震え上がらせるほどの威圧を持った声。 しかし、沖田は怯むことなく応えた。 「いえ、どうということはありやん。ただ」 土方は、とうとう振り向いた。 沖田の声が、確かに震えていたからだ。 だが、振り向いた直後、こうなることを見越していたように、沖田に目元を覆われる。 「総悟「振り向くなって、言ったでしょう」 低い声が、耳元で囁かれた。 「応えてくだせェ」 かつて愛した女の弟である今の恋人から、その姉への想いを教えろと、半ば脅迫混じりに言われている。 どういうシチュエーションだ、と土方はため息をつきそうになるが、流石にこの状況でため息なんかつけば、沖田に殺されかねないと飲み込む。 沖田の不安そうな気配が手を通して伝わってくる。 どう答えれば、沖田が一番傷つかずに済むのか、土方は頭の中で必死に考えを巡らせた。 だが、それは沖田の一言で中断することになる。 「俺はあんたにきいた時点で」 は、と自嘲めいた掠れた笑い声。 「傷付く覚悟はできてまさ」 ああ、と土方は目を緩くあける、そこは相も変わらず沖田の手に覆われていて真っ暗だ。 それでも、手に取るように今の沖田の表情は想像できる。 「そういうわりに泣きそうな顔しやがって」 土方の目元を覆う手に力が入り、親指の第一関節が鼻を押し潰す。 「そんな顔してませんぜ」 はっ、と沖田は鼻で嘲るように笑い、土方の言葉を否定する。 目には堪えきれない不安の色が浮かび、ゆれているというのに。 「じゃあ、応えてやるよ」 会話の流れを断ち切るように、土方の低い声が脱衣所に響いた。 いよいよ沖田の額には冷や汗が浮かび、顔面は蒼白、目はグルグルと焦点を合わせないまま游いでいる。 そんな沖田の手首を、土方は突然強く掴むと捻りあげた。 突然の土方の行動に狼狽えた沖田は、手を絡めとるようにしてに土方に抑え込まれる。 「俺は」 それでも土方は苦しそうな沖田に構うことなく、耳元に口を寄せて囁いた。 「ミツバを愛していた」 びく、と一瞬跳ねた沖田だったが、徐々に受け入れるように目を閉じていく。 そうして、どれくらいたっただろう。 沖田はゆっくりと口を開いたあと、また閉じてからゆるりと口許に弧を描いて、言った。 「そうですか」 首だけを後ろに向けた沖田の顔に、土方は言葉を失う。 今にも泣きそうな、子供みたいな無垢な顔。 そんな顔が土方に向けられたのは、もうずいぶん前のことだ。 しかし、それを差し置いたとしても、きっとこの表情は生涯慣れない類いのモノだ。 「そう、ご」 腕を振って存外弛くなっていた拘束から逃れた沖田は、狼狽えて名前を途切れ悪く呼んだ土方に抱きついた。 「愛していました」 そして、胸元に顔を埋めてそう言った。 土方の目が見開かれ、揺れる瞳でどこか遠くを見ている。 「姉上は、あんたを愛していました」 ぎゅ、と着流しを握りしめて苦しそうに吐き出した。 「愛していました」 先程と同じ言葉を、もう一度泣きそうな声が重い響きを持って溢れた。 「ああ」 土方は、そんな沖田を見下ろしながらも、しかしそれをいうのがやっとだった。 沖田総悟は確かに今、温かい血肉と感情、そして命を持ってここに在る。 土方からすれば、それしか確かなことがないのだ。 ミツバが亡くなった今、あのときの土方の行動を咎める権利がある者は、どこにもいない。 いたとして、きっと彼女は土方が傷つかないように"あなたはなにも悪くないのです"というのだろう。 そしてその彼女は、沖田にとって唯一無二の心の休まる処だった。 そんな彼女がいなくなった沖田は、いつまで正気を保っていられるのだろうか。 何もわからなかった。 確かな想いはあった、だがそれは口にしてはいけないもので、しかし二人は想いあっていた。 何も分からないのだ。 ただひとつの土方にとっての確かなこと、それは沖田が今生きていることだった。 だから 「俺も愛していた」 正直にもう一度それを告げた。 ぎゅ、と一層強く着流しを掴んだ沖田のてに、一度優しく指先を這わせたあと、土方は続ける。 「でも」 沖田の頭を掴み、ぐっと鎖骨の辺りに押し付けて、もう片方の腕を背中に回して強い力で抱きすくめた。 そして、目を丸くして静止した沖田の耳元に唇を寄せた土方は、目を瞑って祈るように言った。 「お前が死ねばよかったとは思わない」 沖田の肩に頭を乗せて、髪に鼻先を埋めると、甘い匂いが土方の鼻腔をくすぐった。 ああ、この匂いもコイツが生きている証だと、土方は心から安堵を覚えるほどだった。 「…俺は」 震えた声が、沖田の唇から漏れる。 そして、額をぎゅっと土方の胸に擦り付けると 「生きてしまった」 苦しそうに吐き出した。 土方は、ただそれを黙って聞くことにしたのか、何も口を出さない。 「俺がいた為に、姉上はたくさんの我慢をしてきやした」 ぼろぼろと、沖田の唇から零れていく言葉は沖田のものであって、沖田のものでないような、酷く曖昧で不安定な言葉だ。 「ずっと後悔してたんです」 一息吸って、しかしそういった沖田の手からは言葉とは裏腹に力が抜けていた。 「でも、アンタがそう言うのなら」 ゆるりとした動作で離れると、顔を上げて土方に微笑んだ。 その綺麗な純粋な笑みに、土方はいつか見た光景を思い出す。 それを自覚した途端、頭にそれが鮮明に蘇る。 光をキラキラと反射させながら、緩やかに緑の合間を縫うようにして流れる小川のせせらぎ、鳥の声、土の匂い。 "十四郎さん"そう女性らしい穏やかな声があの時土方を呼んだのだ。 振り返って、そして笑う彼女を目にしたときも、嗚呼綺麗だと土方は思ったのだった。 その彼女と沖田が、土方の中で重なる。 「俺は、生きていてよかった」 『私は、生きていてよかった』 ぴったりと、ハーモニーでも奏でるように同じ台詞を言って沖田は微笑んだ。 いつか見たミツバの笑顔、今は亡き者となったミツバの笑顔。 とうとう土方は、頭の中ではっきりと重なった二人の姿に堪えきれなくなり目を瞑った。 「ああ」 土方はまたさっきと同じような返事をすると、沖田の形の良い丸い頭を撫でた。 ゆるりと耳殻をなぞり、うなじ辺りの髪を指にくるりと巻き付けて、土方は目を細める。 ミツバより短い沖田の髪は、歳月と共に伸びていく。 当然のことではあるが、亡くなった者の髪は、もう伸びないのだ。 沖田が生きている証。 生きている、それ以上のことは何も望まない。 土方がただぼんやりと意識を他所に置いていることに気づいたのだろうか、沖田はトンと土方の手を払って背を向けた。 「着替えとってきてくだせェ」 風邪ひいちまったら元も子もありませんやとつけたしながら、先程のことは何もなかったかのように袴の紐を解き始めた沖田。 一瞬呆けたように取り残された土方だったが、やがて呆れたようにため息をついて背を向ける。 「しっかり湯につかれよ」 最後に過保護なことを言い残して、暖簾を腕で上げて土方は出ていった。 沖田は振り返って、その背中を見つめていたが、足音が消えるとずるりと壁に凭れかかって座り込んだ。 「ははは」 渇いた笑い声をあげて沖田は電灯を見つめる。 「姉上のこと思い出してたなァ」 随分と動揺してくれちゃって、と今度は内心でつけたしながら、少し伸びた前髪をかきあげた。 「バカなお人だ」 そう呟くと、土方の表情を思い浮かべて「けらけら」と声に出して笑い声をあげる。 「はははは」 ひとしきり、そうやって渇いた笑い声を無表情であげた沖田は「あーあ」と唐突に言った。 「愛されるわけねェだろ」 自嘲的な笑みを口許に浮かべ、沖田は鼻で笑った。 「バカなのは俺か」 沖田は髪をかきあげていた手を目の前に持ってくると、握ったり開いたりを繰り返しながら目を細める。 「それでも」 微かに揺れる白い人工的な光に手をかざすと、それでも透けて血潮が流れているのが見えた。 いつかかざした場所は武州の太陽の元だったか、まだ幼く小さい柔らかそうな手を脳裏に思い描きながら、沖田は目を瞑って祈るように呟く。 「生きてる」 それでも生きてる、想われずともまだ生きていて、息をして食事をして睡眠をとっている。 それ以上のことを望むのは、傲慢というものなのだろうか。 沖田は、どうすればいいのかわからないまま温い手で目元を覆った。 胸の辺りが痛むのは、きっと無理な練習をしたからだ。 そう言い聞かせても、自覚した姉への嫉妬心に、醜い自分を見た沖田は、もう心を冷やすばかりだった。 |