※昔自分が書いたはずなのにわけわからん 花街に行って女を抱いた。 最初は軽い気持ちだった、誰でも最初はそんなものだろう。だが、それが癖になったのはいつ頃だったか、もう覚えていない。 そうして愛しかった人にそれを気づかれたとき、自分が無意識にそれを隠そうと、依存していたと気づいた。時既に遅し、とはよくいったものだ。自分はもうそいつを、以前のように愛せていなかったのだ。 「お前なんか」 そいつは、らしくなく涙をボロボロと流しながら、訴えていた。歯をぎり、と噛み締めてから息を吸って、叫ぶ。 「 」 空間から、音がぼこりと取り除かれたように聞こえなくなる。素直に泣けばいいのに、唇を噛み締めて堪えている。俺はそれにたいして、背を撫でて謝るべきなのだろう。 しかし、俺は狼狽えるばかりだった。片耳を抑えて、今しがた起こった出来事を振りかえる。 音が、消えた。 さぁ、と血の気が引くのを感じて理性が僅かに崩れていくのを感じる。気づけば泣いているそいつ、沖田総悟の肩を掴み叫んでいた。 「おい!さっきお前なんていった!?」 びくり、総悟が突然の出来事に目を見開き身体を大きく跳ねさせる。それから顔をくしゃりと歪ませ更に叫んだ。 「あんたから離れていったくせに!今さらこんなことで怒るなんて「いいからさっき言ったことをもう一度言え!!!」 とうとう総悟が崩れ落ち、恐怖しているのかガタガタと震える。俺は今どんな顔をしているのだろうか。 「ぁ…なん、で」 「いいから言えっつってんだろ!」 総悟の顔から血の気が引いて、青くなっているのも構わず、また肩を掴み催促する。 すると総悟は下を向き涙を溢しながら口を開く。 「なんどでも言ってやりまさぁ…」 歯を食いしばってから 「 」 嗚咽が聞こえた。 「 」 叫びの余韻が聞こえた。 「っは…」 息を吐いた。目の前の総悟はぜぇぜぇと必死に空気を取り入れようと喘いでいる。 「音が、消える」 呆然と呟いた。やっと顔を上げた総悟は、それに一瞬だけキョトンとした顔をしたが、そのあとすぐに顔を歪ませた。 「ふざけんな…」 そういって再度下を向き、胸板を押して離れようともがいた。だがそれを許さず、反対に抱きしめて力を込めると、「ひっ」とちいさく悲鳴をあげて、肩を竦めたのがわかった。 「わるかった」 音が消えるのが怖くて、普段しない謝罪をした。 「すまねぇ」 自分でも驚くほどに情けない声が出た。総悟には、それがどう聞こえたのだろうか。頭を胸板に擦りつけ、嗚咽をもらした。 「てめぇのためだろぃ…」 そう言いつつも、必死に俺の隊服を握り泣き崩れるのをこらえるそいつは、やっぱり俺をまだ愛しているのだろう。それに気づくと、同時に 、やはりこいつを裏切ったのは、俺なのだと自覚する。 それでも、今俺にすがりつくこいつが確かに愛しかった。いや、それだからなのだろう。 「なんで」 総悟が言葉を紡ごうと、嗚咽の中で息を吸う。 「それでも、あんたが好きなんだ」 今度は音は消えなかった。それに酷く安堵して、俺の腕から力が抜けていくのを自分でも感じた。 「ありがとう」 これまた自分でも驚くほどに穏やかな声が出て、とうとう総悟は子供らしさを僅かに残した大きな泣き声をあげて俺にしがみついた。 「しね…しね!」 叫びながら、それでも俺を離さない総悟は、きっとこの先も俺を愛し続けるだろう。ごめんな、と心の中で謝って総悟をもう一度抱き締め、無心で頭を撫で続けた。 そうして、どれだけの時間がたったのだろう。 襖の隙間から朝の白い光が差し込み、泣きつかれて寝入った総悟を照らそうとする。 俺にしがみついたままのそいつの頬にいくつもついている、涙のあとをそっと拭ってから独りきりの世界にいるような感覚で、誰にも聞こえないような声で呟いた。 ごめんな。 きっと俺は自覚がないままお前を愛することしかできない。 |