痛ぶるのが好き。殴るのが好き。踏みつけるのは気分がいい。血が好き。赤いのは落ち着く。鉄の臭いがいい。その生温さに命が燃えているのを感じる。自分が燃やしているのだ。麻薬のような中毒性がある。 「ほんと、いい趣味してるよ」 骸の数々と、横たわる女の対比は芸術と言ってもよかった。 「映えるな」 どろどろの死体の真ん中に、ぽつりと女が寝そべっている。その赤さの中で一際燃える。 「鏖殺だ」 髪が疎らに血に沈む。欲しい。これほど欲しいものはないと思う。 「髪がべとべとだよ」 「血は温いか」 「この温かさは生で感じるに限るね」 「お前も大概趣味が悪いな」 「そんな私が好きなくせに」 ねえ、と女は血の真ん中で深呼吸した。彼岸のような赤。泥土の淵で快楽を貪る悪魔め。その生き生きとした残酷さがたまらない。これほど唆る女はいない。 「お前には赤が一等よい」 初めて血に塗れ、その心臓をかつてない程の弾力で踊らせた時、この女こそ己の悦楽なのだと悟った。ここには桃源郷がある。 「接吻を」 脆そうな四肢を組み敷いて、かさついた唇同士を合わせる。黒い味がする。 「宿儺」 この女が居てこそ成り立つのだ。この女無くしては血の楽園は存在しない。 「お前は俺に楽園を見せてくれる」 「人はそれを地獄と呼ぶんだよ」 獄卒など恐るるに足らぬ。舌を抜かれるのがなんだと言うのだろう。針の山など幾らでも歩いてみせよう。そんな生温い責め苦など、己にとっては退屈極まりない。 「お前こそが俺の心臓だ」 生を感じる。生きるに足る。ここには総てがある。 「ほんと、いい趣味してるよ」 もう一度、と唇を合わせる。ここには総てがある。 いつくしみの美学 |