「△さんが好きです」 絶対に諦めません。 あの時の目元、形はそっくりだけど、やっぱりお父さんとは違うのね、と女はやけに嬉しそうだった。 「君の教え子は健気でかわいいね、悟」 「いやほんと、たまにピュアすぎて先生心配になっちゃうよ」 恵はどうせ、この女と自分が付き合っているとでも勘違いしているのだろう。 都合がいいので、ほったらかしだが。 「恵くんも君も、ほんとに趣味が悪いよ」 「半分くらい僕が育てたみたいなもんだし、僕の性癖が影響したかな」 なんだかんだ、十年くらいずっと片思いだ。 我ながらよく飽きないものだと思う。 教え子の方より自分の方がよっぽど健気だと悟は思う。 「でもザンネーン、△が好きなのは恵のお父さんの方なんだよねー」 僕泣いちゃう、と泣き真似をしながらソファに凭れる。 この女が片思いしているのは自分の教え子とそっくりな顔したあの厄介なプロヒモゴリラの方だ。 とっくの昔に死んでるくせに、まだ女の心臓に居座っているとは、まったく迷惑極まりない男である。 「いつまでも死んだ男のことなんか引きずってないでさあ、いい加減僕に乗り換えなよ」 ソファから起き上がって、女を抱きしめながら肩口に顔を埋める。 こっそりキスマークを付けようと皮膚を吸うと、さすがにぽかりと頭を殴られた。 「こういうことしてるから恵くんが勘違いするんだよ」 「本気で嫌なら嫌がれよ、お前が止めなきゃどこまでもやるよ、僕は」 強く拒絶されないのをいいことに、ギリギリセーフくらいのことなら何でも悟の勝手にしている。 この女も寂しいのか、お互いなし崩しになる手前まで何しても文句を言わないので、普段からこんなでベタベタとあちこち触りまくったりキスしまくったりしている。 「マジな話、本気で拒絶しないならそのうち僕はお前を抱くよ」 「身体から落とすってことかな、なかなか乱暴だね」 「そうでもしないとお前僕に落っこちないでしょ」 「抱かれるなら、恵くんの顔の方がいいかなあ」 「オエエまじ…それ本気…?」 「はは、ごめん冗談だよ」 「冗談に聞こえないんだけど…」 自分が年単位で片恋してる女の身体を、ひとまわり以上年下の教え子に取られるなんて、最悪極まりない。 そんなことになったら本気で自分は呪術師をやめるかもしれない、割とガチで。 「そんなことになったら僕、術師やめるけど…」 「ごめんごめん、やめないでよ」 「僕を揶揄った罰でキスしてやる」 「いつもしてるだろ」 「もっとえっちなやつだよ」 「ええ?しょうがないなあ」 こうやってどんどん折れてくれればいいのに。 そして気がついたら、心も身体も全部自分のものになればいいのに、ああ。 愛はほんとうに面倒極まりない。 どうせ面倒なだけだから |