juju | ナノ





 口の端からほつほつと水滴が溢れている。それを拭って、暫くすると、またぽつっと雫が溢れてくる。

「お前、なにそれ」

 まあいいかと、もういいかと、油断した隙に低級の呪いを頭から浴びた。

「ふうん、そんで、人魚になっちゃったってワケ?」

 口がきけない。はくはくと金魚のように唇を動かして暴れる。

「あれっ、もしかして水がなくて苦しいとか」

 干涸びた尾鰭を地面に打ちつけて、いっそう苦しく藻がいた。

「…いいよ、海に連れてってあげる」

 そのまま体をそっと抱き上げたと思ったら、五条は枯れた唇にキスをした。

「ふは、お前さあ、まじでなんにも喋れないんだね…」

 五条が相当怒っているのに、気を失う寸前で気付いた。
 目を覚ますと、五条の家のバスタブの中に溺れないよう横たえられていた。
 真横にいた五条と目線がかち合って、あ、と思わず声が出た。

「あの呪い、多分だけど人魚姫の絵本から生まれた呪いだよ」

 捨てられたんだろう、きっと。もっと読んで欲しかったんだろうか。

「どう?僕がキスしたお陰で人間に戻れた訳だけど」
「どうも」
「それだけえ?なんかもっとあるでしょ」
「えええ…」
「ところでお前は今真っ裸なんだけどそのことについてはどう?」
「最悪ですね」
「ちなみに僕は最高」


人魚の手足
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