花と共に目醒める。冬が遠のくのを感じる。 「起きた?」 唇の形がいい。この人の髪は雪より白い。 「鳥ってできれば飛びたくないらしいよ」 夢の中で昨日言われたことを思い出した。私たちもそう。できれば起きていたくない。 仕方なく目醒め、月明かりを待つ。 「お前、最近ずいぶんと良く眠るよね」 朝も悟に起こされるまでずっと布団の中でぐずぐずしている。 鳥と同じで飛びたくないのだろうと、瞼をずっと閉じている。 「なんか、ねむくて」 「自律神経ぶっ壊れるよ?ちゃんと早寝早起きしな」 「んー」 ほら、と布団を剥がされて無理矢理畳の上まで引っ張り出される。 冬が終わりに近いとはいえ、まだ炭を焼かねば凍え死んでしまいそうになるほど朝は冷える。 悟が徐に火鉢の中に炭を放り込む。熱くないのか、毎回お構いなしに素手で炭を突っ込むので指先が真っ黒になっている。 悟の指は白く冷たい。そういえばこの男は指が綺麗なのだと思い出す。 「みて、指、真っ黒」 「無下限張りなよ」 「やだ、△といるのに」 「じゃあ火箸使いなさい」 「はあい」 ていうか指拭いてよ、と目の前でちらちらと手を振る。 こうしていつも、この男は小さなことで世話を焼かせたがる。 「布巾かして」 「これでいいよ」 いいよ、と差し出されたのは素描き染めにした上等な着物だった。 そんなもので炭のついた指を拭けるかと押し返す。 「いいよ別に、こんなの腐るほどある」 「私がよくない…それ高いやつでしょうに」 大したことないやつだよ、とその辺にほっぽり投げる。 未だ悟の指は黒い。 「わかったよ、かして」 存外太い手首を捕える。爪先を口に含み、指の腹を舌で撫でると、白い肌が粟立った。 暫くぼうぜんとしていたが、やがて密度のある睫毛が可笑そうにぱたぱたと瞬いた。 「やだ、△のえっち」 誘ってるの?と身体を畳に押し付けられたので、そうかもしれないと曖昧に笑い返した。 どんな味がしましたか |