わざわざ揶揄うためだけに仕事を早く切り上げて女に会いにいくのがいつからか日課になった。 「で、いつまであんなイカれた野郎の傍に居るわけ」 ある日ぽかっと、二人揃って居なくなった。今思えば二人はいつも、何するにも一緒だった。 「悟、なんか勘違いしてるみたいだから言っておくけど」 「うん」 「私は別に傑の思想に賛同したから傑の横にいるわけじゃないよ」 「ええええなにそれじゃあなんなの」 「私は傑が好きだから傑の思想に賛同するのさ」 順序が逆だよ、と女は笑った。その笑い方、十年前からずっと好きなのをこの女はどうせ知らない。ひどい。最悪だ。 「私の善悪の指針は十年前からずっと傑なんだから」 どうして瞼を伏せながら愛おしそうな顔をするのか。そんな顔、自分には一度だってしたことないくせに。 「悟だって昔はそうだったでしょ」 そうだ。何するにも、必ず一回は傑に聞いてた。何でも聞いてた。二人ともそうだ。この女は十年前からずっとそうなんだ。 「二人して僕を置いてけぼりにしちゃってさ」 いいな、△は。傑と一緒にいられて。ずるいな、傑は。△と一緒にいられて。 自分だけひとりぼっちだ。 「そう拗ねるなよ」 「拗ねるよ、二人とも最低だ」 「まあまあ、万が一あの人が死ぬようなことがあれば、それはきっと君に殺される時なんだから、おあいこだろ…私が君たち二人の間に割り込む余地なんてないんだから」 「いいの、そんな簡単に僕に殺されちゃって」 「万が一の話だよ、そりゃ傑が死なないように頑張るよ」 「僕が傑を殺すってなったら、お前は僕を殺す?」 「何ありえない話してるんだよ…不可能だよ」 「もしもの話」 うーんと女は腕組みして暫く悩んだ後、今まで見た中で一番綺麗な顔して笑った。 傑にはその顔たくさん見せてるんだろうな、と思ったら悲しくて吐きそうになった。最悪だ。 「どっちかっていうと、私は君に殺されたいかな」 「好きでもなんでもない男にぶっ殺されていいわけ?」 「傑を殺せるのは君だけだもん、同じやり方で殺して欲しいな」 「死ぬ時まで一緒がいいのかよ、呆れた」 「一緒がいいよ、だって好きなんだもん」 いい加減帰れと、窓際まで押しやられる。 「なに、大好きな傑くんが帰ってくんの?」 「そうだよ、見つかったら怒られるだろ」 帰ってくるのが待ちきれないのか、随分たのしそうな顔している。だからなんでそんな顔するんだ。心臓痛い。二人とも本当に最低だ。 どうだい僕の憂鬱は |