juju | ナノ





 ここ最近ずっと俯いているので、顔を覗き込んだら、あんまり隈が濃いので面食らってしまった。

「夏油、ひどいよ」

 ああ、と溜息のように返事をして、少しふらふらした後、そのまま座り込んでしまった。

「ええ…大丈夫…」

 なんにも返事を寄越さないまま、自販機の前に座り込んでいる。引き摺って行こうにも重くて無理なので、黙ったままの男の横にしゃがんだ。

「なんか飲み物買いに来たの?」
「ん…」
「私もだよ、何飲みたいの?奢ってあげようか?」
「…ん」
「私とおんなじのでいい?麦茶でいい?」
「△」

 急に、顔を上げたと思ったら、見たことないような顔をしてた。

「夏油」

 あんな顔、初めて見た。

「私、もう」

 髪を結い上げる気力もないのか、最近は髪を下ろしていることが多かった。
 疎らになった前髪の隙間から、鬱屈とした瞳がちらちら見えた。

「夏油…」
「もう、見たくないんだ」
「何を」
「全部…君以外の全部…何も見たくない」

 見たくない、と繰り返して、また俯いてしまった男の頬に手を添えると、死んでるみたいに冷たかった。

「じゃあ、見なくていいよ」

 乾燥して割れた唇に口付ける。目を見開いた男の目元を手で覆って、耳元に唇を寄せた。

「ほら、何も見えないでしょ」

 △、と静かに名前を呼ばれた後、手のひらがだんだん熱くなって、濡れた。
 そのうち男に抱き締められる形になって、背中に腕を回すと、思っていたより大きく感じた。

「大丈夫、もう何も要らないよ」


こんなにたくさん要らない
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