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 自分の下でぐずぐず泣く女を見て、夏油は思わず下唇を噛んだ。

「ごめん、もうやめるから、だから泣かないで」

 目尻を親指で拭う。柔らかい皮膚の弾力を指の腹に感じて、ぬるい涙が滲みる。

「違う、やめないで」
「でも」
「お願い、やめないで」

 五条の代わりに抱いてやろうかと、最初に言い出したのは夏油のほうだった。
 女は暫く黙って俯いていたが、やがて夏油の肩に凭れるようにして身を預けてきたので、夏油はそのまま服を脱がせてやって鎖骨に口付けた。

「やめないで…」

 白い肌を惜しげもなく晒して、花のような唇で泣いた。
 そこに初めて噛み付いた時に感じた罪悪感と幸福感で、夏油の脳味噌はぐらぐら揺れた。

「△…こんなこと言い出してごめん、もうやめるから…」
「違うの…夏油…」
「だけど、君、」
「お願い、続けて…」

 どうして自分じゃなくて五条悟なのか。考えても埒があかないのに。
 女の目元からぼろぼろと涙が溢れる。それを見ているとかわいそうになる。そして同時に腹が立つ。

「△」

 誰に対する罪悪感で泣いているのか知りたい。好きな男に申し訳なく思っているのかそれとも自分に対して悪いと思っているのか知りたい。
 どうして自分じゃなくて五条悟なのか。あの青い瞳と自分の瞳を入れ替えればこの女は自分を好きになるのか。
 夏油はよくわからない。

「夏油、夏油…」
「△、私のことは悟って呼んでいいから」

 宙を彷徨う右手を捉えて、静かに女の首元を舐めた。

「悟」

 君が羨ましい、と夏油は思った。五条悟。あの男の青い瞳が妬ましい。こんなにも。

「悟、」
「そう、そうやって呼んでいいよ」
「悟…」

 目を瞑ったままの女に口付ける。いま口付けているのは自分なのに、自分じゃない。いまこの女に口付けたのは、夏油傑ではなく五条悟のほうなのだ。

「好きだよ、△」

 こんなにも、好き。代わりでも構わぬと思えるほど。

「好きだよ」

 永遠に好きなのだろうと、夏油は思う。でももう、それでもいいと思う。


永遠の傷跡
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