juju | ナノ





 不貞腐れた顔でベッドに座っている。さっきから小さい唇を窄ませたまま、なんにも喋らない。自分が何かしてしまったのか、思い当たる節がないので七海は途方に暮れた。

「私が何か」
「いや、ナナミンのせいじゃないよ」

 その渾名はやめてくれと再三言ったのに。気に入っているのか、そればっかりだ。

「建人と呼んでください」
「やだ」
「ではせめて七海と」
「ナナミンってかわいいじゃん」
「私は可愛くありません」
「かわいいよ」

 ぶつくさ言いながら爪を弄っている。人差し指のささくれを剥がしてしまう。それが癖だと知っていて、七海が何度もやめさせようとするのに、一向に治らない。

「ささくれ、剥がさないでください」
「あー…」
「綺麗な指なんですから」

 ナナミンと呼ぶのもささくれを剥がすのもやめてほしいのに。指同士を絡めると、手が小さいのがよくわかった。

「ナナミンの手の方が綺麗だよ」

 ぽつりと、涙が落ちる。目尻が赤くなって、黒い睫毛が何度もそこを撫でる。

「あなたのほうがずっと可愛くて綺麗ですよ」

 跪いて、ささくれた指を咥えると、涙の味がした。身体が揺れる。吃驚したのか、涙が少し引っ込んだようだった。

「ナナミンのえっち」
「私を誘惑しているあなたが悪い」
「落ち込んで泣いてる彼女にそんなこと言うの」
「落ち込んでいても可愛くて綺麗ですので」

 ナナミンのばか、と目頭に残っていた涙が落ちた。

「ちゃんと慰めて」
「どんな慰め方がお好みで」
「ナナミンのしたいようにしていいよ」
「では好きにさせてもらいますが、あとから文句はなしですよ」

 ちゅう、と首筋に吸い付くと、涙目でぼんやりしたままベッドに倒れ込んだ。


引っ掻き傷を涙で埋める
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