天井が回って見える。部屋の中に真っ直ぐなところがない。全部ぐにゃぐにゃに曲がって見える。 「あれ…おかしいな…」 この部屋って壁紙に模様があったっけ。ないはずの模様が見える。 「五条?」 自分が回っているのか部屋が回っているのかわからない。好きなあの子のスカート、あんな色してたっけ。名前を呼ばれている気がするのになぜだか返事ができない。 「五条!」 あれ、これ、熱出てるのかも。そう思ったら、気を失った。 見上げると、天井が回っていなかった。 「あれ、」 「おはよう」 生きてるね、とあの子は真顔でお粥にレンゲをぶっ刺した。 「あ、俺さあ」 「熱出したことないのが取り柄じゃなかったのか」 「あー…そんなこと言ったっけ…」 「言ってたよ」 この蕎麦殻の枕は自分のじゃない。ここがどこだか考えようとして、でも頭が働かなくて考えるのを放棄した。 ぼんやりしていると、ほんのり湯気の立ったお粥を差し出された。 「食べる?」 「あ、うん…食う…」 「自分で食えるの?食わせてほしいの?」 「△に食わしてほしい…」 「はいはい」 あーと口を開けていると、そっとレンゲを唇に押し当てられる。あ、卵だ。これ好きだ、と目で訴えると、あの子は満足そうに笑った。 「美味しいでしょ」 「すげえ…うめえ…」 「どんぐらい美味しい?」 「実家で食ったキャビアより…ずっとうまい…」 「はは、家でキャビア食べてんの?うける」 横目で好きな子を見ると、本当に可笑しそうに笑っていた。 「キャビア食ってんのって…そんな面白い?」 「なんか、高熱でうなされながらキャビアキャビア喋ってんのがうける」 「お粥さ、それ…お前が作ったの?」 「そうだよ、すごい美味しいでしょ」 うん…と夢の中のような気分で返事をした。本当に美味しくて、好きな子の作ったお粥を好きな子に食わしてもらえるなら、熱を出すのも案外悪くないと思った。 「俺…いまめっちゃ…幸せ…」 「は?熱出してんのに?」 「だって、俺、お前のこと好きだから」 「初耳ー」 「お前の作ったお粥、お前に食わしてもらって、やべえ…好きだわ…」 「あは、熱出してる五条やばいね、めっちゃ素直」 ああ変なタイミングで告白したなって、うまく動かない頭でちょっと後悔した。でも、あの子は嬉しそうに笑ってこう言ってた。 「じゃ、看病してやったお礼にどっか連れてって」 それってデートじゃん…と遺言のように言い残して俺はまた気を失った。あの子が横で大爆笑しながら空になった皿を片付けていたのをあとで硝子に聞いた。 へなちょこヘモグロビン |