juju | ナノ





 眠るまでの時間はいつも億劫に感じる。眠ってから見る夢も嫌いだ。
 黙っていても夜は来る。朝だけでいいと、何度も願った。

「夏油、まだ起きてんの?」

 最近めっきり冷え込んだと思った。夜が来るのは早くなるし、朝が来るのは遅くなる。
 吐く息が白い。

「ああ、眠れなくてね」

 自販機の横のベンチで空き缶を弄っていたら、好きな人が立っていた。

「コーヒーなんて飲んだら余計眠れなくなるぞ」
「別にいいさ、むしろそのほうがいい」
「不眠症かなんかなの?」
「夜に見る夢が嫌いなだけだよ」

 呪霊の群れに追い掛けられて、腹を食い破られる。散々痛めつけられては、嘔吐して目が醒める。

「クソみたいな夢を見るんだよ」

 夜風が頬を撫でるのを、ぼんやり感じる。あのとき腹から溢れ出た内臓の色。思い出してしまう。

「病院行けば?」
「病院なんか行かなくても、君が添い寝してくれたらきっと眠れるんだけどな」

 ふーん、と形のいい唇を少し曲げた。ああ。その唇でおやすみを言ってくれたら。きっといい夢を見るのに。

「いいよ」
「え」
「添い寝、してあげる」
「え!」

 ほんと!?と興奮して立ち上がると、堪えきれないと言った風に、好きな人は吹き出した。

「え、本気かい?いいのかい?本当に添い寝してくれる?」
「いいけど、その代わりお願い一個聞いてよ」
「え、え、勿論、私、何すればいいかな」

 ベンチに座って脚を組み、頬杖をついて自分を見上げる瞳の色が、夢みたいに綺麗だった。

「私と付き合ってよ」

 ね、と首を傾げる。その、悪戯が成功したみたいな顔。本当に好きだと思った。


策士夏に溺れる
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