物を盗む癖がある。 「あ、」 またやっちまった、と盗むたびに思う。 「誰にも気づかれないで盗めるぜ」 なんでも盗める。なんでも手に入る。金があってもなくても、欲しいものはどうにでもできる。 だから、あの女の心が欲しいと思った時、どうしたらいいのか分からなかった。 心は盗めない。形がないから。 「おい、心って、どうやって盗むんだ」 心ってどこにあるんだ。心ってどんな形してる。 「心に形はあるし、盗めるよ」 盗んでごらんと、女は言う。 「私の心を盗んでみなさい」 ヒントをくれ、と頼む。心は盗んだことないからハンデが欲しい。 「場所くらい教えろ」 「場所ね」 いいよ、と言って、女は俺の心臓のあたりをちょん、とつついた。 「ここです」 あ?と睨め付ける。女はおかしそうに笑った。 「盗めたら教えてね」 あの子の心臓窃盗罪 |