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 振り返ると、女が石を積んでいた。

「や、随分遅かったね夏油くん」

 河原に座り込んで、薄く石を積み重ねる。親より早く死んだ子は、三途の川を渡らずに石を積む。それを鬼が壊して、わんわんと泣きながらまたはじめから積んでゆく。

「久しいね」
「思ったより長生きしてしまったよ」
「石を積むのに飽きてたところだ」

 君は変わらないねと、女に言われる。死んだ時と同じ格好で、少し笑っていた。

「君は?どうして死んだの?」
「色々やらかして、悟に殺されたんだよ」
「ふうん、それで?君は満足なの?」
「まあ、やれることはやったよ、後悔はない」

 それより…と女の髪を一房掬うと、花の香りがした。生きていた時と同じ匂いだと思った。

「君に、会いたくて仕方なかった」

 生きてた時と変わらない。この姿形にどれほど焦がれたか。実際、人生の半分くらいはこの女のこと考えていた気がする。いやもっとかもしれない。ほんとうに呪術師だけの楽園が作りたかったのか。それともこの女とふたりっきりの桃源郷に憧れたのか。過去の自分にも今の自分にも分からない。ただずっと会いたかった。生きても死んでもそれだけ思っていた。

「とにかく君に会いたくて、こうして触れたかった」
「生きてた時と違って、台詞に信憑性があるね」
「前は嘘くさかったとでも言いたいのかい?」
「君が言うと胡散臭いからね」
「酷いな、私は全部本心で言っていたのに」
「いま本気だって分かったよ」
「それはどうも」

 細い肩を引き寄せると、抵抗もなく腕の中に収まった。生きていた時なら多分、跳ね返されていた。

「…嫌がらないんだね」
「君が本気だって分かったから」
「はは、それじゃあ、私と結婚してくれるかい?」
「いいよ、してあげる」
「本当に?嬉しいよ…十年近くアプローチして、ようやくいい返事をもらえた」
「君も本当に懲りなかったよね、何度断っても結婚して欲しいって…会うたびに言ってた」
「本気で君が好きだったからさ」

 さあ、と立ち上がる。ぞうぞうと鬼が逃げる。

「さて、地獄巡りと行こうか」
「バージンロードが地獄道とは洒落込んでるね」
「△はドレス着たかったのかい?」
「いや、動きにくい服は嫌いだ」
「あはは…君ならそう言うと思ってたよ」

 手を取って歩き出す。誓いのキスは針山がいいかと、女の肩を引き寄せて思った。


願ってもない世紀末
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