juju | ナノ





 なるべく気付かれないように意識している。そうやって毎日過ごす。

「こんにちは夏油くん」

 今日も挨拶される。毎日挨拶される。そしてそれに笑って返す。

「今日も天気がいいね夏油くん」

 晴れでも曇りでも雨でもとにかくこの女は綺麗だ。それに色めきたって欲情しているなんて悟られたくない。

「甘いものは好きかな夏油くん」

 特段好きなものでなくてもこの女から貰えば何でも嬉しい。部屋に飾って毎日眺める。それから一番大切な物を仕舞うところに入れる。

「お疲れさまだね夏油くん」

 呪霊の血を思う存分浴びて、女は狂気的な美しさだった。ああ、あれを好きなようなできたら。想像するだけで涎が止まらない。でもそんなこと気が付かれたくない。そんなこと考えてるなんて知られて恥かきたくない。だから必死に隠す。
 獣のように目元が光り、喉の奥が鳴る。それを必死こいて隠す。獣だと思われたくない。

「夏油くん」
「ん、なんだい?」

 物腰は穏やかに、優しそうに、目線を合わせて話をする。嫌われたくないから。今も多分、完璧にできてる。いい人だと思われたい。

「夏油くん、君ね、残念だけど…」

 隠し切れてないよ。そう言われた瞬間、笑顔を保つのが無理になった。

「え…」
「君、初めて会った時からずっと、狼みたいな目で私のこと見てる」

 隠せてると思った?君も案外不器用なんだね。そうやって信じられないくらい綺麗な顔で笑う。ああ…。

「なんだ…すべてお見通しだったわけだ」
「夏油くん、隠すの下手くそなんだもん」
「君が目敏いだけじゃないかな?私はこういうの人より上手いんだよ」
「まあ、そんなことはどうだっていいよ、それより夏油くん」

 私のこと欲しいんでしょ?その笑い方。すごく好きな笑い方。

「そう…欲しくてたまらないよ」
「それなら、あげよう」

 どうぞと、差し出された首筋に、思い切り噛み付いた。


いつか鎖が壊れても
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