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 妙な男に声を掛けられておろおろしていたら、右側から突然蹴りが入って男が視界から消えた。

「あ」

 これでもかというほど長い脚。がっしりした肩。相手を威圧する隈の濃い目元。

「脹相…」

 一瞬、こちらを見て微笑んだと思ったら、今にも嬲り殺しにしそうな冷めた目で男を見下ろした。

「貴様、一体誰に話し掛けていると…△があまりにも美しくて声を掛けずにはいられなかったのだろうがやっていいことと悪いことが、」
「脹相!」

 はっとして、声を上げると、少しこちらを見遣って、そのまま小さくため息をついた。

「…分かった」

 命拾いしたなと、男は真っ青になってよろめきながら立ち去った。

「脹相、私が止めてなかったら殺してたでしょ」
「ああ…だがお前は殺生を好まない」

 必死に堪えたのだと、かさついた指先で顎を掬われる。

「お前のために耐えた」
「うん」
「相応の褒美を貰わねば割りに合わん」

 その紫のような不思議な色の眼差し。私だけに向けられる慈愛の色。この手つき。物を丁寧に扱うのは苦手なのに。

「何が欲しいの?」
「お前が俺にくれるのならなんでも」
「脹相が一番欲しい物をあげる」

 ちゃんと我慢できて偉かったからね、と付け加えると、顎に添えていた指先で頬を撫でて、そのまま口付けられた。

「それなら、お前が欲しい」


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