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 最近よく、幻を見る。あのひとの背骨に口付ける幻。

「傑、お早う」

 髪を掻き上げると、白い肌が見える。その白さに幻を見る。いつも。

「お早う、今日も綺麗だね」
「そりゃどうも」
「私は本気なのに」
「君が言うと嘘くさいんだよ」

 酷いな、と笑う。そしてあのひとも笑う。

「傑、よく眠れてないでしょう」
「どうしてそう思う」
「だって最近、朝はすごくぼうっとしてる」
「それは」

 それは夜に、あなたの幻を見るから。
 幻は夢より白くて軽い。そしてカルキを抜いた水のように透き通っている。
 想いが累積する速度と、幻が透過する速度はいつも同じだ。

「△は私のことをよく見ているね」
「君が私にべったりだからだよ、傑」

 喋るたび、白い肌に誘惑される。このひとの背骨に口付けたい。人が鳥だった頃の名残に、舌を這わせて、無色の羽で包んで欲しい。

「…△」
「なあに」
「私、最近、幻を見るんだけど」
「なに、それ」

 ずっと黒い睫毛でこちらを見ている。その長い睫毛が宝石みたいにきらきらしてる瞳を重たそうに抱えている。
 ああ、このひとはまだ鳥なんだ、と思う。背中から透明な羽が生えてる。だからそれに口付けたいと願ってやまない。

「△、君の背中に、キスしたい」

 小さく呟いて、それから恐る恐る顔を見遣ると、透き通るような眼差しで笑っていた。

「知ってる」


正夢のかたまり
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