「傑、その辺でやめてあげて」 男の片腕がもげそうになっているところで、傑の眉が少し動いた。 「でも、△」 「傑」 「…でも」 「傑、やめなさい」 もういいと、視線で訴える。暫し逡巡して、男を床に転がした。 「これ、死んだらどうするの」 「この程度で人は死なないさ」 「傑、君さ、やりすぎなんだよ」 どこが、と本当にちっとも分かってなさそうな顔で傑は腕を組んだ。 「だって、この男、君のことを見てたんだ」 「見てただけだろう」 「いやらしい目で見てた」 「そうか…」 うん、となんでもないみたいな顔をして蹲る男の脇腹を蹴り上げる。 うう、と変な呻き声をあげて男は小便を漏らした。 「うわ、汚いな」 「もう行こう傑」 「全く、これだから猿は嫌いなんだ」 いや猿とか関係ないと思うが、と言いかけてすんでのところで飲み込んだ。 とにかく、この夏油傑という男は私のことになると歯止めが効かない。 沸点はわりかし高い方だが、逆に一度怒らせるとなかなか許してくれない。 私のことを変な目で見ていたとか、ちょっと肩に触ったとかで、簡単に人を殺す。 高専にいた頃はまだ半殺しくらいで済んでいたのに、最近、教祖の真似事をするようになってからは、あんまり躊躇なく人を殺すようになった。 男でも女でも、私に害ありと思えば誰でも簡単に殺した。 「最近は度が過ぎてるよ傑くん」 「そうかな、もともとこうだけど…私は君のことになると歯止めが効かない危険な男なんだ」 「なんだ、自覚はあるのか」 「あるさ」 するりと頬を撫でられる。手が少しかさついていて、肉刺がある。趣味が格闘技だって、前に言っていた気がする。そのせいかどうか、知らないが。 さっきまで男を嬲っていたとは思えないくらい綺麗な顔で、傑は私に頬擦りをした。 「私は君のことで頭がいっぱいで、どうしようもないんだよ、△」 物騒な男だな、と思う。私のせいであと何人死ぬのか、あんまり考えたくなくて目を閉じた。 愛され地獄はどちら? |