好きなひとに優しくされたいって、どうせみんなそう思ってる。 好きなひとにはなんでも与える。欲しがるものは盗み、気に入らない奴がいれば嬲って殺す。 いままで散々、奪われた分を奪い返し、痛ぶられただけ痛めつけてやっただけで、俺は何も悪くない。 これでもしバチが当たって、天国に行けないのなら、そんなの不公平だと思う。 「お前が欲しいもんはなんでも買ってやるし、気に入らねえ奴がいんなら殺してやる」 だからその分、大事にして欲しいし、自分だけ特別なんだって、思わせて欲しい。 好きなひとには差別されたい。自分以外の人間はみんな塵芥だと思って欲しい。 そして一瞬でも俺だけのために笑ってくれるなら、その一瞬の幸福で俺は何百年も生きられる。 「甚爾、君は何もしなくても愛される資格があるんだから、そんなに必死にならなくていいんだよ」 あのとき、抱きしめられたときの熱。光。涙が瞼の縁に沿って流れて、あのひとの声が聞こえた。 「△」 「私の心臓を君にあげる」 甚爾、って、呼ばれるのが、はじめて嬉しいと思った。 俺の心臓だって、食べて欲しい。残らず食い尽くして、たとえ死んで地獄に落ちても、奈落の底だって天国だって思わせてほしい。 きみの劣性をあいするのだ |