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※中村様リクエスト/五条と冬のお話




 手に軟膏を塗って欲しくて、毎年冬は手袋をしなかった。

「また霜焼けになってる」

 血の色が悪い。肌の色が白いから、赤いのがよく目立った。

「おいで、悟」

 うん、と返事をしてふらふら側に寄る。いい匂いする。好き。

「なんで君はマフラーはするのに手袋はしないんだ」
「さあ」

 なんでだろうね、と知らないふりをする。別に気づかれていようがいまいが、どっちでもいい。
 たぶん、気づいていてもいなくても、薬を塗ってくれるって、知ってる。

「ほら、手を出して」

 言われるままに手を差し出す。軟膏を赤く切れた痕に塗り込んで、掌の熱で暖める。
 そのときの、この女の、睫毛の艶。手元を見つめる息の色。ぜんぶが好き。好き。
 これが見たくて、毎年絶対に手袋はつけない。

「△、手、あったかい」
「君はこれが好きだね」
「うん、好きだよ、すごく」

 すごく、好き。どうにかなってしまいそうなほど、好き。心臓の動きが変。絶対へんな形になってる。
 ぼうっとして、掌に熱を感じる。指、細い。白い。雪みたい。あったかい雪だ。

「悟、ちゃんと手袋つけなさい」
「まあ、そのうち買うよ」

 そのうちっていつだろうか。たぶん、買わない。じゃないと手に軟膏を塗ってもらえなくなる。
 それ以外にこの女に触ってもらえる方法なんか思いつかないんだから、絶対手袋は買わない。

「全く、君もなかなか馬鹿な男だね」
「馬鹿でいいよ」

 馬鹿でいい。阿呆でいい。この女に触ってもらえるなら、なんでもいい。
 湿った指先を少し撫でて、女は苦笑いした。


あなたを想えば冷える指先
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