※ミミナナ視点 「私の心は、全部△に預けたんだ」 猿共を殺すとき、夏油様はいつもあのひとの名を口にする。 「正しい心なんか今の私にはないんだよ」 朽ちてゆく命の傍らで、あなたはあのひとに想いを馳せる。 「△、私の△」 私のほんとうの心、と、夏油様はちょっと寂しそうに呟いていた。 あの時の、夏油傑の横顔を、美々子も菜々子も一生忘れない。 「夏油様の、とても愛しいお方」 なんて羨ましい。いいな。ずるい。だって私たち、あんな顔されたことない。 「うつくしいひと」 肌が白くて、いつも夏油様の横で本を読んでいる。あのひとがそっと笑うと、夏油様は優しく頬を撫でる。 「ずるい」 私たちには一生わからないふたりだけの話。何も言わなくても分かり合えているあの視線。 あのお方に優しくされている時のあのひとのうつくしさ。 そのすべてが、そのすべてが、美々子も菜々子も心底羨ましい。 「美々子ちゃん、菜々子ちゃん」 紅茶をどうぞ、と青いトルコ製のカップを差し出される。 このカップだって、夏油様に買ってもらったものだって、ふたりはよく知っている。 「ありがとう、△様」 にこっと笑う。ああ、その目元。その口元。あのお方がとても好きな、その笑い方。 「とてもうつくしい△様」 憧れることすらできない。欲しいとさえ思えない。うつくしいあなたがとても羨ましい。ほんとうに、とても。 死春期 |