この女を愛してからというもの、俺の心臓は独占欲に喰らい尽くされ見るも無惨な様相だった。 「痛…」 いつも起き抜けに首筋に噛み付くと、寝惚けた瞳で悪態を吐かれた。 「痛いんですが」 こちらを睨む双眸には嫉妬に狂った呪霊のような姿の己が反射している。喰い千切られた嫉妬心が辺り一面に散らばって、煮えたぎる地獄のような赤さだった。 その赤い地面に、己がぽつねんと佇んでいる。そういう夢を毎度見る。 「ああ…痕残るよ、これ」 「残したんだ」 わざとだと、はっきり申告すると、呆れたように溜息をついた。 「こんなこと、毎回しなくたって、私はどこにも行かないさ」 そんなに不安なのかな?と乱れた前髪を撫で付けてくる。寝癖であちこちに飛び出た毛先を弄って、女は微睡むように口付けた。 「△」 「安心してよ」 そんな不安なら私も半分呪霊になったっていいのだと、白い肌でくすくす笑うので、俺はその細い腰に抱きついて永遠の愛しさを噛み締めた。 無防備な幸福論 |